Blog 「根性論」の営業はもう古い?!QDQで見直したい、タイ人が納得する営業戦略とは?

2019年10月21日 (月)

企業取材記
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世界各国の企業が参入し、競争の激しいタイ市場では、自社が挑戦する市場の分析から顧客の分析に加え、自社商品の強みを深く理解した営業チームづくりまで、しっかりとした営業戦略が欠かせません。しかし、日本とは異なる商習慣や営業スタイルに加え、コミュニケーションの壁もあり、タイ人営業担当者がどのように営業活動をしているのか把握できず、「売れなかった」という結果しか分からない、そのため改善でもできないという話を耳にします。

今回は、大手タイ企業での営業経験や大手コンサルティングファームでの経験を経て、現在は、Mercuri International のパートナー及びMDとして、営業プロセスや営業成績の改善、営業人材の育成により企業の事業成長をサポートするタナロート氏から、タイ人が自信を持って営業に臨める営業戦略をお伺いしました。

顧客のハートを掴め!僕は商品の親善大使

ガンタトーン:
現在タナローンさんは様々な企業で営業のコンサルティングをしてますが、そもそもどういった経緯で営業の仕事を始めたんですか?

タナローン氏:
大学卒業後に「バイタミルク」ブランドなどの豆乳を製造・販売するグリーンスポットという会社で営業職に就いたのが最初です。中小企業でしたので、営業以外に営業分析にも携わり、営業に関わる全体像を見ることができたのは良かったです。その後、皆さんもよくご存知の外資系ビールブランドの会社に転職しました。

ガンタトーン:
そうだったんですね。タイ企業と欧米企業だと、営業方法に何か違いがあるのでしょうか?


タナローン氏:
中小企業と大手企業という点ではインセンティブなどの仕組みに違いはありましたが、顧客はタイ人ですので営業スタイルはどちらもあまり変わらなかったです。人間関係、つまりリレーションシップに重きをおいた営業スタイルですので、僕は自分をその商品の親善大使だと思って営業に出向き、顧客と良い関係性を築くことに注力していましたね。お客さんと仲良くなると、売上目標が厳しい時に「僕のために買ってください!」と泣きつくと買ってくれたりもするんですよ(笑)。タイでの営業には、お客さんとそういった関係性をつくれる見た目や雰囲気、コミュニケーション能力を持った人が合っていると思います。

ガンタトーン:
おお、凄いですね(笑)。でも人間関係が重要だということは非常に納得感があります。タイ人は人と人との繋がりを非常に重要視しますからね。日本の営業スタイルよりも、一歩踏み込んだ関係づくりが必要そうですね。

タナローン氏:
そうだと思います。あと、どちらの会社でも営業だけではなく分析も担当していましたので、現場で何が起きているのか、そして、どのような結果になったのかを深く読み取る経験も積むことができました。トラディショナルトレードとモダントレードの違いを知ることができたのも大きかったです。

その後、営業人材の能力開発に興味を持つようになり、外資系コンサルティング企業を数社経て現在に至ります。金融分野、農業分野、エネルギー資源分野、ソリューションサービス分野の営業など、様々な業界のクライアントを持つことができ、多くの会社の営業体制の整備や人材育成に関わることができました。

ガンタトーン:
ザ・優秀なタイ人の華麗なるキャリアステップですね(笑)!

タナローン氏:
ありがとうございます(笑)。 

タイ人が自信を持てる営業戦略とは?

ガンタトーン:
よく日本人駐在員からは、「タイ人営業マンがどこで何をしているのか分からない」「進捗具合も曖昧だし、離職すると顧客情報もろもとなくなってしまう…」なんて話を聞きますが、タイの企業はそのあたりどうしているのでしょうか?

タナローン氏:
「売れそう?」と聞くと「はい!いけそうです!」と言い、「いつ売れそう?」と聞くと「近いうちに売れます!」と言い、「なんで売れないの?」と聞くと「いやぁ、競合が」とか「高いんです」と言う…これはタイ企業も全く一緒です。営業担当者の行動も不明瞭で、営業プロセスも可視化できていない、そういった課題はタイ企業でも同じなのです。

ガンタトーン:
なるほど。日本人だけの悩みではないのですね。タナローンさんが考える「タイ人に合う営業戦略」はどのようなものですか?


タナローン氏:
まず、「100社いけば10社あたる」的な、雑な確率論は捨てた方が良いですね(笑)。僕が担当していたある在タイ日系企業では、1時間で何箇所回れるかという軸で営業リストとスケジュールを作っていました。売れる見込みのない会社に行っても時間が無駄になりますし、売れなければ営業のモチベーションも下がります。こうした「数打ちゃ当たる」営業はやめた方がいいです。僕の会社「Mercuri International, Thailand」では、QDQ(Quantity Direction Quality、以下:QDQ)と言う考えに基づいて営業戦略を構築しています。

ガンタトーン:
なるほど。そのQDQについて、もう少し詳しく教えてもらえますか?

タナローン氏:
QDQは、営業活動で整えるべき3つの要素「Quantity(抽出したターゲット)」、「Direction(営業戦略の方向性)」、「Quality(効果的な営業方法)」の頭文字を取った営業戦略の策定方法です。

「Quantity(抽出したターゲット)」では、営業先候補を資本金や事業規模、関連する商品などの基準を定めてフィルタリングをし、角度の高い顧客のみを抽出した営業リストを作ります。販売確度の高い上位50〜60%だけを営業ターゲットとして絞り込みます。

ガンタトーン:
すべての顧客を片っ端からあたるのではなく、見込みのある顧客のみに営業するわけですね。無駄も減りますし、これだと営業のやる気も出るかもしれません。

タナローン氏:
次に「Direction(営業戦略の方向性)」です。ここでは、ターゲット顧客の事業や担当者の分析、周辺市場(他社)の分析を行い、自社のどの商品をどのように販売するか戦略を定めます。営業は自分が売りやすい商品、例えば価格の安い商品などを積極的に売りがちですが、それは顧客のニーズに果たして合っているのか?と言う点で疑問ですし、安いものばかりを売っては会社の成長は支えられません。顧客の興味がありそうな商品を最初から絞り込んで提案をすることで、成約の可能性は高まります。

ガンタトーン:
「安いから買う」と言うお客さんもいますが、「高くてもいいから、丈夫で長持ちする製品が欲しい」と言うお客さんもいますよね。こちらが欲しいと思う商品をきちんと把握してくれる営業には好感が持てます。

タナローン氏:
そして最後に重要になるのが、最初にお話ししたリレーションシップの部分にあたる「Quality(効果的な営業方法)」です。訪問企業先の担当者に合ったコミュニケーション方法を学び、また、営業体制の中でもマネージャーと担当者間でのコミュニケーションのやり取りやコーチング方法などを身につける必要があります。最後はやはり、人間関係ですね。


タナローン氏:
先ほどガンタトーンさんがおっしゃった「タイ人は営業が苦手では?」と言うお話ですが、最近はそうでもありませんよ。たかしかに、昔タイ人は商売を身分の低い華僑(中国人)に任せていましたので、営業という仕事はあまり好まれる仕事ではありませんでした。しかし、今タイ経済を支える財閥グループのほとんどは、元華僑の人々です。CPグループなどを筆頭とした彼らの活躍を見ている最近の若者たちにとっては、営業という仕事はそんなに悪い仕事ではありません。深い関係を築くという点では、やはりベテランの方が得意な傾向が強いですが、戦略的な営業スタイルに対しては、積極的な若い子も多いと思います。

しかし、一貫して言えるのは、誰だって断られたら悲しいし、納得いかない営業活動で身を粉にして働くのは嫌なものです。営業環境を整え、営業活動の無駄を省くことで、足りないと思っていた人的リソースも実は足りてしまい、営業成績も上がった、なんてこともあります。営業は、お客様に最も近く、多くの情報をキャッチできる重要な役割です。QDQをしっかり整備し、自社に合った戦略的な営業方法、強い営業チームを作りましょう。

ガンタトーン:
「雑な確率論」から「丁寧な確率論」へ!という感じですね。自社の商品を自信を持って顧客に提案できるよう、営業環境を整えていきたいですね!

※上記の記事に関連して、2019年11月21日(木)18:30-20:00、「日本人向け無料セミナー|タイ人が自信を持って挑める、営業環境の整え方とテクニック」を開催予定です。ぜひ、お越しください!

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執筆 mirai campus

mirai campus の運営事務局。

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