Blog 第3回 対話が職場の景色を変えていく|COACH A (Thailand) Co., Ltd. 特別取材

2020年04月29日 (水)

企業取材記
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COACH A (Thailand) Co., Ltd. のマネージングディレクター、青木美知子氏とガンタトーンとの白熱した対談もいよいよ今回が最終回。第3回では、タイに赴任している日本人駐在員が成長するためには何が必要なのかをテーマに、二人が語り合いました。さて、その結論は…!?

グランドルールを設定しよう

ガンタトーン:現在は在タイの日系企業が主なクライアントですよね。日本人とタイ人の違いを感じることは多いですか。似ている点も多いと思われます?

青木氏:相違点、共通点、どちらも感じますね。違いといえば、最近、私自身、うちのタイ人スタッフに「青木さん、数字だけで動くのは日本人だけですよ」と言われてハッとしました。伝えたつもりでいたけれど、伝わっていなかった(笑)。会話による組織改革をうたっておきながら、これではだめだと反省しました。日本人は空気を呼んだり阿吽の呼吸を求めがちですが、それは世界でも特殊です。外国に来て本当にそう思いますね。言葉を尽くしてお互い違うところからスタートし、自分たちは何をやれるのかについて対話する重要性はタイでも他の国でも同じ。世界共通です。


ガンタトーン:僕はタイ人ですが、やはり多くの日本人のように「わかってくれよ、タイ人」としょっちゅう思ってます(笑)。でも、先日、印象的な話を聞いたんですよ。欧米諸国の方が、上司と部下が話す時間が長いそうです。日本やタイは上司がしゃべっている時間の方が長い。

青木氏:それは感じますね。タイと日本の似ている点でしょう。日本人はよく「タイ人は話をしてくれない」と言いますが、上司がしゃべっていたら部下はしゃべれない。上が話しているときに質問をするのは失礼だという感覚があるからですが、それはタイの方がより強い。だから、上の人を敬う文化を前提として、違う意見があったら話してくれていいよ、ここは意見を言っても良い場所だというグランドルールを明示的に設定することが大事だと思うんです。

ガンタトーン:同感です。タイも日本も同じハイコンテクストの文化ですから、意図的に腹を割って話す時間を作らないといけない。ちょっと空気が怪しいなと思ったら、「最近、どうなの」と上司の方から尋ねる場を作ることは必要でしょう。

関わりを諦めた瞬間にわかりあえなくなる

ガンタトーン:タイ人に対して「話をしてくれない」「意見を言わない」という悩みを持っている駐在員はたくさんいます。青木さんは彼らの悩みについてどう思われますか?

青木氏: タイに進出している日系企業の歴史を振り返ると、日本人の指示通りに動いてくれるタイ人をよしとしてきた時代が長かったと思うんですよ。だから、日本人に何かものを言ったらまずいんじゃないかと思っているタイ人は多いのではないでしょうか。語弊があるかもしれませんが、「タイ人は意見など言わずに粛々とやってください」というのが、これまでの日系企業の文化だったとも言えるのではないでしょうか。

ガンタトーン:確かにそうです。しかし、最近は変わってきていますよね。

青木氏:おっしゃるとおりです。タイも日本も変わりました。タイの人件費は高騰しているし、日本は日本で人手不足で苦しんでいて、そうそう人は送りこめない台所事情があります。本当の意味でタイをはじめ、東南アジアのニーズを把握し、現地の人が主体的にビジネスを作り上げなくてはならない段階に入っています。でも、タイ人からすれば、「いままで何も考えずにやれと散々言っていたのに。これまでは意見を言ったら怒ったじゃないか」というのが本音でしょう。 日系企業自身が、今の社員達の文化を創ってきたともいえるんです。

ガンタトーン:まさにそのとおりです(笑)。ものを言わないように指導してきた文化を変えようとするなら、グランドルールをもう一度設定しないといけない。日本人だけが変わるのではダメだし、タイ人だけが変わる必要があるわけでもない。お互いが歩み寄って寄り添う必要がありますが、青木さんが考える「日本人駐在員に必要なスキルや心構え」とは何でしょうか。

青木氏:対話を諦めないことでしょうか。関わりを諦めた瞬間にわかりあえなくなります。「あれ?」と思ったらなぜこうなのか、こんなふうに考えられないのかといったやりとりをしてほしい。価値観や文化が違うからわかりあえないといって対話を終わらせてきたのがこれまでの歴史です。そのままでは何の変化も起こせません。

ハードアサインメント&コーチで人は成長する

ガンタトーン:タイに来ている駐在員はみなタイに来たいと思ってやってきた人ばかりではありません。海外駐在は初めてで、いきなり部下が増え、これまで生産ラインを担当していたのに人事まで担当しなくてはならなくなり、つらいという人も少なくない。青木さんは彼らの悩みをどうご覧になっていますか。COACH Aとしてどのように貢献しているんでしょうか。


青木氏:駐在員になると、環境が変化し、役割のエスカレーションも起きます。タイの拠点長になると、これまでとはまったく異なる役割を果たしていかなければなりません。でも、ハードアサインメントを与えられたときは、人がもっとも成長する瞬間です。日本とタイでの異なる役割を比べて、タイではどういうシナリオに沿って、日々どういったセリフを言い、どのような行動が求められているのか。現状とのギャップを埋め、備えていくべきものは何かをコーチは、クライアントと一緒に紐解いていきます。早く力を発揮できるように時間短縮を行うのがコーチの大きな役割なんです。

ガンタトーン:大きな負荷は成長のチャンスだということですね。

青木氏:コーチは何も教えないしアドバイスもしません。いろいろなことを眺めて、あなたが本当に選びたいものが何なのか、選択をするときのブレーンストーミングのパートナーとして存在します。いま自分が何を持っていて、何が足りないのかを棚おろしし、必要なものを身につけるプロセスを伴走します。

ガンタトーン:赴任期間の3年〜5年の間、波風を立てたくないし、特に何もやりたくないという駐在員もいますよね。彼らに対してはどうコーチするんですか。

青木氏:そういう方にはコーチは必要ないですね(笑)。でも、ほんとうにそう思っていますか?、ということは聞きます。

諦めかけていた部下との関係が変わってきた

ガンタトーン:第1回で、最後に残る「やっかいな問題」とは、人と人との関係性というお話がありました。コーチングによって、部下との関係が顕著に変わってきたという事例はありますか。

青木氏:たくさんありますよ。前にお話したように、私たちは「対話を通じた組織開発」を提案しています。それぞれの「正しさ」と「正しさ」がぶつかる「やっかいな問題」を乗り越えるには、コーチングに基づく「対話」しかないだろうと考えています。そこで私たちは、自分がコーチをつけながら、一方で自分の部下をコーチすることを構造化し実践していくプログラムをソリューションの一つとして提供しています。


ガンタトーン:上司と部下が「対話」をする。それはただ、話をすることとは違うんですね?

青木氏:ええ。「対話」とは、「私も正しい。そしてあなたも正しい」という前提に立った上で「さて、ここから我々、どうしていけるだろうか?」をともに考え、見つけ、双方が腹落ちするまでの関わりのプロセスです。ここには、コーチングに基づいた「相手への向き合い方」が3つあります。一つ目は、向き合うその時は、地位や年齢にかかわらず「相手と対等であろう」とすること。二つ目は「こちらの正しさ」は一旦脇に置き、「相手の立場」に立って話しを聞く事。最後に、相手の目標達成に向けてどう進められるかを、「相手の物語」を聞きながらともに考えること、です。

ガンタトーン:なるほど。

青木氏:このような向き合い方をすることで、はじめて「さて、ここから我々、どうしていけるか?」のアイディアやヒントを共に見つけ出すことができます。このプロセスは、相手と自分との間に「新たな関係性をつくり上げていくことにほかなりません。

ガンタトーン:そうした「対話」を通して、上司と部下との関係が変わっていくわけですね。

青木氏:そうです。面白いもので、「コーチなんて」と思っていた方が部下をコーチングするうちに、職場を見る目が変わっていくということが起こります。ちょっとした工夫で部下との関係が変わってきたとか、何も考えていないと思っていた部下から提案がどんどん出てきたとか、これまで諦めかけていた人たちの変化を目の当たりにすると、いままでネガティブに見ていた職場で部下や自分自身の可能性が信じられるようになるんです。「信じる」ということは能動的な行為。信じるか信じないかはリーダー次第ですが、相手が信じるに足るから信じるのではなく、まず信じると決めるところから始める、という関わり方もあるのではないかと思います。

ガンタトーン: 職場の景色が変わるということですね。これはすごく腑に落ちます。自分のフィルター次第で見えてくる景色は変わりますからね。

青木氏:ええ。同じ職場を眺めていても、部下との対話を重ねた経験がある上司とそうでない上司とでは見方が違います。職場が変化する可能性が高まっていく。それはデータからも明らかなんです。動かない部下を前にして苛ついて叱るというのはよくあることだと思いますが、相手にも自分にも事情があるから、じゃあ、どうしようかと考える寛容さを持てば、それは相手にも伝わる気がします。

ガンタトーン:お互いに事情があると考えて、そこで諦めるのではなく、そこからどうするのかを考えていくんですね。

青木氏:そう。自分の見方や捉え方を変える可能性のとびらを開く「対話」から始めてみる。そこに挑戦する価値は決して小さくないと思いますし、さらに言えば、リーダーにとってその価値はさらに大きいだろうと思います。

ガンタトーン:まさに「対話」の素晴らしさですね。次の機会では、「対話」を通して職場が変化した事例について詳しくお聞きしたいと思います。ありがとうございました。

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執筆 三田村 蕗子

日本のビジネス誌、流通専門誌、ビジネス書を中心に活動するフリーライター。2014年11月、拠点をバンコクに移し日本とタイを行き来する。鋭い視点で、活気づくタイとASEANのビジネス事情を取材している。

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