Blog 世界第8位のイノベーティブ企業 CP ALL に学べ!価値を生むイノベーション創造方法

2018年05月14日 (月)

企業取材記
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イノベーションとは、「知恵を造り、価値を創造し、実現できるもの」

2017年8月、フォーブスは「世界で最も革新的な企業」リストを発表した。上位100社の大半はセールスフォースやテスラ、Amazonといった米国企業で占められ、日本企業では楽天の26位が最高位。その楽天を抑えて21位に輝いたのがタイのCP ALLだ(2014年は世界8位)。タイ最大の財閥チャロン・ポカパングループ(CPグループ)の一員として、セブン−イレブンを中心に金融、教育、情報サービスなど幅広いビジネスを展開するCP ALLは、タイにおけるイノベーティブ企業の代名詞といっていい。

セブン−イレブンの店舗数1万店以上、トータルで10万人もの従業員を抱える巨大企業をイノベーティブな組織たらしめているのは、一部のエリート社員でもなければ、外部の有能コンサルタントでもない。組織を形成する従業員のポテンシャルを徹底的に引き出し、イノベーションにつなげようとする企業努力のたまものだ。

「知恵を造り、価値を創造し、実現できるもの」

イノベーションをそう定義し、鮮やかに軽々とイノベーションを実現するCP ALLの企業文化と人材育成の極意を探ってみた。

イノベーションの目的は組織が抱える課題を解決すること

「私たちはイノベーションは4つあると考えている。一つはプロセス、つまり改善や改良だ。二つ目はプロダクト。3つ目はサービス、そして4つ目がビジネスモデル。これらのイノベーションを生み出すには、社内で実施するクローズイノベーションと外部の組織と連携して行うオープンイノベーションの両方が欠かせない。社員の年数や階層別に、普段の仕事の中からイノベーションを起こす場所・見せる場面を作ることが重要だ」

こう話すのは、 CP ALL社が経営母体となって運営しているパンヤーピワット経営大学(PIM)のレートチャイ・スタマノン博士。社内で実施するクローズイノベーションは、「アントミッション」「プレジデントアワード」「大きな魚の群れ」「プロセスエクセレントアワード」の4つのカテゴリーで構成されている。

小さなアリ(アント)が懸命に働いている光景からネーミングしたという「アントミッション」では、入社して2年〜3年の社員全員から改善につながるアイデアを募り、年に一度イベントを開催している。成果は問われず、重視されるのはロジックに基づいて考えられているか否かだけ。社員のKPI(主要業績評価指標)としても機能している。

一方、新しく開発した商品の売れ行きなど実績に基づいてコンペを行うのが「プレジデントアワード」。「大きな魚の群れ」というユニークな名称のカテゴリーではセブン−イレブンの店舗に対して影響力を与えた取り組みを、「プロセスエクセレントアワード」では、食品メーカーのCPフードやカウンターサービスなどCP ALLの関連子会社と連携した取り組みを対象にコンペを実施している。

興味深いのが、こうしたアワードでは従業員に一切金銭物品を授与していないこと。1位〜3位の順位付けもなしだ。その代わり、金銀銅のクライテリアを設け、各基準に合致したアイデアを出した従業員には企業トップから直接表彰される。競争を排しているのは、「イノベーションとは組織が抱える課題を解決するのが目的。名誉を贈るインセンティブが組織にとっては一番合った方法だと考えている」(スタマノン博士)からだ。

「大きな魚の群れ」のカテゴリーから生まれた近年の大ヒット商品が、セブン−イレブンで販売されている「ゆで卵」だ。「手間をかけずにすぐにゆで卵を食べたい」というニーズをつかみ、ベストセラー街道を爆進している。

なぜ「ゆで卵が?」というなかれ。CP ALLでは、まず卵を生む鶏から選別をかけ、毎日卵を生む若い鶏を生む卵の中から小ぶりの卵だけをセレクトしている。何万個もの卵を均質にゆでるプロセスにも工夫を凝らし、独自のノウハウを編み出した。すべては「食べやすく値ごろ感があるゆで卵」を実現するためだ。

「ゆで卵」は「チーム卵」としてシリーズ化され、「半熟卵」「温泉卵」のほか、殻をむいて文字通りすぐに食べられる「ゆで卵」も加わった。社内の商品開発部ではなく、一従業員のアイデアが元になったヒット商品は、従業員の力を活用するCP ALLの企業姿勢の象徴だ。

小売店にはつきもののレシートも従業員の素朴な疑問によって生まれ変わった。セブン−イレブンで買い物をすると、手渡されるレシートが他店と比べると圧倒的に短く小さいことに気づくはずだ。それでいて必要な情報はすべて盛り込まれている。

「発端は『なぜレシートは長い必要があるのか』という従業員の疑問だった。短くしたことで地球を2週できるほどの分量の紙を節約でき、何百万バーツものコストを削減できた」

大きなカイゼンにつながる小さな疑問を見逃さない仕組みがあるからこそ実現した好例である。

生徒は先生以上に考えられるようにはならない

外部機関と連携しながら進めていくオープンイノベーションとは、発表されたまま放置されている大学の論文等を掘り起こし、商品やサービスの開発に役立てる仕組みを指す。研究段階の「眠れる資源」の実証にセブン−イレブンはうってつけだ。店舗でテストマーケティングを行い、新たな価値の創造につながったと認定されれば「7イノベーショアワード」が贈られる。クローズドな社内とオープンな社外。異なる環境でイノベーションを生み出す装置が稼働している。

イノベーションが求められているのは、パンヤーピワット経営大学(PIM)の運営事務局も同様だ。36の部署はそれぞれアイデアを1つ考えて実践に移し、年に一度のイベントで発表しなければならない。

「イベントは、各部署が推進してきたプロジェクトの成果を発表する場。昔はステージの上でチームが競い合っていたが、表彰式で審査員から『もっとこうすればよかった』などという意見がフィードバックされることに対して、参加者から『そのアドバイスは先に聞きたかった』という疑問が噴出したため、競争は中止した。現在は、プロジェクトの最初の段階から専門家が各チームに入って定期的にアドバイスを提供している。これなら各部署のメンバーも緊張せずにプロジェクトを進め、イベントに臨むことができる。イベントは他の部署の良い実例を全員とシェアする機会だ」

従来型の枠にはまった「教育」や「指導」では生徒の可能性の芽を摘んでしまいかねないと、PIMの教員たちが各自につけられたメンターからアドバイスを受け、コーチングの技術を学んでいることにも注目したい。

「学生が『甘いお茶を開発したい』と提案したとき『甘かったらお茶ではない』とはねつけてしまうと、話はそこで終わってしまう。教師に必要なのは我慢して生徒から話を引き出す技術。生徒は先生以上に考えられるようにはならない。教師も適切な質問の仕方を学ぶ必要がある」

従業員や生徒の柔軟な発想を活かすも殺すも教える側や組織次第。必要とあれば専門家をつけ、イノベーションを育てる土壌に絶えず養分を与えながら大きな果実に育てていく。そうした仕組みがCP ALLには縦横無尽に施されているのである。

次号は、優秀な学生を徹底的に青田刈りするPIMの驚異のシステムについてレポートしよう。

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執筆 三田村 蕗子

日本のビジネス誌、流通専門誌、ビジネス書を中心に活動するフリーライター。2014年11月、拠点をバンコクに移し日本とタイを行き来する。鋭い視点で、活気づくタイとASEANのビジネス事情を取材している。

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