Blog タイ人従業員が長く勤める会社 10の条件

2018年09月09日 (日)

講座紹介
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雇っても雇ってもタイ人がすぐに辞めていく。そんな問題に頭を抱えていませんか? 教育したと思ったら辞められて、また一から仕切り直し。そんな事態に何度も遭遇していませんか?

タイ人が定着しないのは「タイ人がジョブホッピングする人々」だからではありません。「転職を簡単に考えている」からでもありません。帰属意識を持って働き、なかなかタイ人が辞めない会社もたくさんあります。

もしタイ人の定着率が極めて低く、パフォーマンスまでもが低迷しているとすれば…?その原因はあなたの会社の人事制度にあるのです。

タイ人スタッフのモチベーションを上げ、定着率をアップさせるために必要なのは、3つのコンセプトを理解した上で人事制度を設計すること。3つのコンセプトとは、カウチャイ(เข้าใจ:理解する)、カウトゥン(เข้าถึง:近づく)、パッタナー(พัฒนา:改良する)

あなたの会社のタイ人従業員のエンゲージメント(帰属意識)を飛躍的に高める魔法のコンセプトを、人材育成や人的資源管理のプロ、タヌデート・ターニー先生が日経ビジネススクール(NBS)アジアで徹底解説してくれました。去る8月23日に「スタッフのモチベーションと定着率をアップさせるタイ式人事制度設計と運用の仕方」の講義で語られたそのエッセンスをお届けしましょう。

目次
1. 信頼関係の重要性を理解しよう
2. 従業員の話をもっと聞こう
3. 従業員を褒めてプラスのドアを開けよう
4. 会社の状況を公開しよう
5. 会社を辞めたくなる5つの条件
6. 従業員が幸せを感じ、長く勤める会社の10か条
7. 評価はコンピテンシー(能力)を重視しよう
8. 従業員と「心」で会話をしよう

1. 信頼関係の重要性を理解しよう

タイ人は日本人のように「仕事だから」と割り切って収入のために働くことはしません。なぜならば、タイは豊かな国であり、働かなくても生きてゆける環境だからです。彼らが働く環境に求めることは、気持ちの面で満たされること、人間関係や職場環境の居心地の良さなのです。

彼らに最高のパフォーマンスを発揮してもらうには、まずは、信頼関係を築くこと、ハートの部分を温めていくことが必要です。では、「ハートの部分を温める」とは具体的に何を指すのでしょうか。

それが、カウチャイ(เข้าใจ:理解する)であり、カウトゥン(เข้าถึง:近づく)であり、パッタナー(พัฒนา:改良する)です。

この3つのコンセプトは順番も大切です。まずは従業員のことを理解し、彼らの言葉を受け止めること。そして、彼らの心にリーチして信頼関係を築きましょう。信頼関係が築けた上で従業員の能力を高める施策や制度を取り入れ、最終的に会社の業績アップ、生産性の向上につなげていきます。

従業員に「この会社にいてとても幸せだ」と思ってもらうことが何よりも重要です。

カウチャイ・カウトゥン・パッタナーとは人事制度そのものです。この3つのコンセプトで、経営者と従業員との間に家族的な関係を構築しましょう。その上で、組織に対する信頼感とロイヤリティを構築すれば、タイ人スタッフは目標を達成するために喜んで会社に貢献します。

2. 従業員の話をもっと聞こう

信頼関係を育む方法の一つが「聞く」です。日本企業の多くは人事制度の標準化にはフォーカスしていますが、従業員そのものにはあまりフォーカスしていません。従業員のニーズを知るサーベイを実施していても、その内容となると決まりきったアンケートの域を出ていないのが実態です。

では従業員のニーズを知り、彼ら彼女たちをカウチャイ(เข้าใจ:理解する)するにはどうしたらいいのか。

より多く「聞く」ことです。現状よりももっと多く「聞く」ことです。経営者は自分が話す時間よりも「聞く」ことに時間を割くべきです。時間が1時間あるなら、30分以上は従業員の話を「聞く」こと。

あるラヨーン県の従業員500名ほどの会社では、社長は従業員に向けてたくさん話はするけれど、従業員の話には耳を傾けていませんでした。その結果、タイ人はこう思うようになりました。「提案してもどうせ聞いてくれない。だったら言われたことだけやればいい」。そうして指示された以上のことはやらなくなりました。

これではだめな例の典型です。経営者は時間をうまく使って、従業員の話を「聞く」ことに時間を充てましょう。これを継続的に行えば、タイ人スタッフの見方は確実に変わってきます。

3. 従業員を褒めてプラスのドアを開けよう

人の心には表(プラス)のドアと裏(マイナス)のドアがあります。モチベーションを高めるには表のドアを開けることが必要です。

そのために効果的なのは「褒める」こと。難しく考えないでください。Facebookで「いいね!」を押すときくらい、カジュアルな気持ちで良いのです。

「今日の服装、いいね」「髪型、よく似合うね」。そんなちょっとしたことで構いません。職場の時間は、家で過ごす時間よりも長いのです。そこで褒められると、従業員の表のドアが開きます。ネガティブな言葉を投げつけたり、陰口を言ったり、怒ったり、暴力をふるってしまうと、裏のドアしか開きません。

日本人はどこか「できて当たり前」と思っていませんか?また、褒めることが苦手な日本人も多いのではないでしょうか。しかし、従業員は機械ではありません。ささやかな褒め言葉から従業員は存在意義を感じるのです。昔日本人に褒められたことを、今でもずっと覚えていて、時折自慢話にするタイ人だっているのです。

プラスの言葉を意識して「褒める」行為で、表のドアの鍵を開けてください。

4. 会社の状況を公開しよう

増産決定で注文が増えたといった良いニュース、不良品が出て再納品になったといった悪いニュース、会社の状況が大変なとき、そのことを従業員に公開していますか?

会社の状況を従業員に公表していない場合、後々トラブルを引き起こす可能性があります。

例えば、ある悪い問題を解決するために、従業員に通常よりも多く残業してもらい、解決までに多大な時間と作業量がかかったとしましょう。マイナスをゼロにするといった問題で利益には繋がっていません。

しかし、ここでこうした問題を伏せたままにしておくと、労働組合は「今年は例年よりも多く残業し、たくさん働いた」と判断し多くのボーナスを期待します。はては年末交渉で大変な事態になりかねません。

会社は常に現状を正しく従業員に伝えること。常日頃から情報のカウトゥン(เข้าถึง:近づく)、つまり、情報へのアクセスをよくしておくことが信頼関係を築き、トラブルを未然に回避することにつながるのです。

5. 会社を辞めたくなる5つの条件

タイ人が会社を辞めたくなる時はどんな時でしょうか。ここに代表的な5つを挙げます。

辞めたくなる条件 1)経営陣に能力がない
経営陣に能力がないと思うとき。スーパーバイザーはマネージャーを、マネージャー以上は日本人駐在員をよく見ています。特に多くのタイ人は「日本人は仕事ができる」というイメージを強く持っています。しかし、そうしたタイ人の期待とは裏腹に実際に駐在となる日本人の中には、日本でのマネジメント経験が浅く、タイ人の期待を裏切ってしまうことも。こうした状況が続くと、タイ人も会社に期待をしなくなります。

辞めたくなる条件 2)会社内でのステップアップの見通しが立たない
いわゆるキャリアパスが見えないときです。会社に残ったらどうなるのか?参考になる上司はいるのか?自分の行くべき道が見えないとタイ人は不安に思います。

辞めたくなる条件 3)研修機会を与えてもらえない、成長する機会がない
研修などの学びの機会が少ないときも、タイ人は不幸を感じます。研修を投資と考える人もいれば、研修費はコストだから削減の対象だと考える日本人もいます。後者にあたると、タイ人は「この会社に残ってもいいのだろうか」を考え始めます。逆に研修の機会を与えられると、タイ人は「評価され認められた」と考えます。仕事にすぐに反映できなくても会社がサポートしてくれたと考えます。研修は一種のボーナスという発想なのです。

辞めたくなる条件 4)直属の上司に能力がない
助けて欲しい時に助けてくれない、一緒に相談に乗ってくれない、仕事を教えてくれないといった直属の上司への不満もタイ人の帰属意識を削いでしまいます。こうしたポジションと能力のミスマッチは、日本の年功序列による人事やコネによる昇進などが影響している場合もあります。

辞めたくなる条件 5)職場環境が合わない
エアコンがちゃんと整備されていない、パソコンの速度が遅いなどの職場のハード面の他、上司や同僚と気が合わないなど、人間関係の問題はタイ人にとって憂鬱のタネになります。

入社の時こそ「会社の看板(ブランド)」を重視するタイ人ですが、辞める時の理由の75%は上司が原因と言われています。こうした細かい不満の積み重ねがタイ人を退社に追い込むのです。

6. 従業員が幸せを感じ、長く勤める会社の10か条

今度は逆に、タイ人従業員が幸せを感じる条件を10個、挙げてみることにしましょう。

幸福条件 1)キャリアパスが明確
まず第一にあげられるのはキャリアパス。日本人はキャリアパスをきっちりと提示すると、それを保証しなければならないと考えますが、保証はなくても構いません。大事なのは見せてあげること。そのキャリアパスの最後まで行けなくてもいいのです。この道に進んでいく権利があるのだと従業員に感じてもらうことが一番です。

幸福条件 2)仕事と生活のバランスが取れている
第二が、クオリティ・オブ・ワーク。ワークライフバランスとも言いかえられますが、残業が多すぎるとバランスが崩れてしまうとタイ人は考えます。

幸福条件 3)トレーニングロードマップがある
第三はトレーニングロードマップ。第一の条件としてキャリアパスを挙げましたが、そのキャリアパスを計画的に設計していくのがトレーニングロードマップです。スタッフからリーダー、スーパーバイザー、マネージャーへとあがっていくためにはどんな能力が必要なのかを明確にすることです。何年ぐらいで昇進できそうなのか、目安もわかると良いでしょう。どれぐらいのタイミングであなたに昇進にチャンスがあるのかをちゃんと見せてあげてください。

幸福条件 4)仕事のツールが整っている
第四は仕事のツールです。いまだにWindows2000を使っていたり、PowerPointも使えないという環境はNG。仕事のツールに投資してください。

幸福条件 5)社員同士の仲間意識が高まるアクティビティがある
第五は、ウォークラリーやイベントです。イベントといってもただやるだけではだめ。タイ人を巻き込んでの工夫が必要です。職場には必ずインフルエンサーが存在します。年末の忘年会でふだんは地味で目立たない人がいきなりがんばったりすることはありませんか? そうした人はインフルエンサーという場合が多いのです。

タイ政府が推進している働き方改革「ハッピーワークプレイス」を実現する際には、そうしたインフルエンサーを絡ませましょう。みなが自発的に参加してくれます。インフルエンサーといっしょに、社員旅行やウォークラリーなどさまざまなアクティビティを考えていきましょう。勤務時間外であること、人に害を与えないこと、回りに迷惑をかけないことを条件にインフルエンサーに自由に提案させてください。

幸福条件 6)「ありがとう」という感謝の気持ちが伝わる
第六は、ありがとうの言葉。何か良いことがあったら褒めていますか? 褒める場所を探して褒めましょう。日本人に褒められるとそれはタイ人にとって大きなモチベーションになります。

伝え方も大事です。「ありがとう」の言葉を忘れずに。そして直接声をかけること。プレゼントを渡すときも感謝の言葉を述べるときも、間接的では効果がありません。直接、渡して声をかけましょう。

幸福条件 7)記念日を大切にしてくれる
第七は、従業員の大切な日を忘れないこと。具体的には誕生日です。意識して「おめでとう」と言いましょう。タイ人は誕生日には朝、托鉢に行き、早く帰りたいと考えています。この心情を理解しましょう。

入社10年、15年、20年、25年、30年の勤続記念の際には必ずお祝いの品を送ってください。このとき送るのは金(きん)で決まりです。金15.2グラムが1バーツ(金の単位)。金の重量1バーツで現金2万バーツの価値があります。タイ人は今日の金の重量1バーツの価格がいくらかをよく知っています。「いざという時に助けとなる」金を会社からもらえるということは、タイ人従業員のモチベーションにつながるのです。

幸福条件 8)改善提案を受け入れる余地がある
第八は”自由さ”です。日本人はマニュアルがあった方が安心して仕事ができますが、タイ人は違います。マニュアルどおりにやるよりも自分で工夫をしたいと考える。だいたい同じ仕事を2、3年続けると一部の工程を省こうと考えるのがタイ人です。

このとき「サボりたいだけでは?」と一方的にNGを出さずに聞いてあげてください。彼らから出てくる提案は日本的にいえば「カイゼン」なのです。話を聞かずに「マニュアル通りにやれ」と突っぱねてしまうと、彼らは勝手に工程を省くかもしれません。大事なのは話を聞くというプロセスです。

幸福条件 9)職場環境が整っている
第九は環境です。あなたの会社や工場の駐車場は足りていますか?タイ人にとっては毎日同じ場所に車を停めるというのはとても大切な行事。いつもの環境を変えたくないのがタイ人です。

職場の机のレイアウトもタイと日本とではパターンが違います。上司の机がすぐそばにある日本的な島型レイアウトで仕事をすると、タイ人は窮屈に感じます。監視されているような気分になるのです。だから上司は上司らしく、ちゃんと部屋を持っていたほうがいい。こうした環境もタイ人のモチベーションに直結します。

幸福条件 10)ボーナスがある
最後に挙げるのがボーナスです。日本企業の良い点の1つが必ずボーナスを支給することです。ボーナスを出さないタイの会社もたくさんあります。このとき大事なのは会社の業績とリンクさせること。そうしなければ労働組合が他社の平均値を持ち出して高い水準を要求してきます。ボーナスは必ず会社の業績と紐づけておき、且つ会社の業績に紐づくものだと従業員が理解することが重要です。

7. 評価はコンピテンシー(能力)を重視しよう

ここまで、従業員のことを理解し【カウチャイ(เข้าใจ:理解する)】、信頼関係を築く【ウトゥン(เข้าถึง:近づく)】方法を見てきました。最後が従業員の能力をより高め、生産性向上に繋げる施策や制度を考える【パッタナー(พัฒนา:改良する)】のステップになります。

通常、企業の評価制度は主に4つの軸、KPI、コンピテンシー(能力)、経験、適合性で行われるかと思います。

このうち日本企業は経験(勤務年数)にウエイトを置きがちです。アマタナコーン工業団地のある日本企業では、能力があるにもかかわらず勤続年数が3年と短いからという理由で昇進をさせなかったためにその人が退職してしまうという事態が起きました。これは非常にもったいないケースです。

内部の有能な人材をしっかり定着させて育てるためには、特にマネージメント層ではKPIとコンピテンシー(能力)に評価のウェイトをおくと良いでしょう。きちんと結果を出している人であれば周りも納得するはずです。

優秀な人材の確保に成功しているタイの企業も、多くがコンピテンシー(能力)の評価を重視しています。

8. 従業員と「心」で会話をしよう

最後に繰り返しますが、タイ人従業員のエンゲージメントを高めるためには、カウチャイ(เข้าใจ:理解する)、カウトゥン(เข้าถึง:近づく)、パッタナー(พัฒนา:改良する)の3つが欠かせません。

現状を把握したいときには、アンケートを実施して、この会社にずっと残るために会社が何を提供すればいいのかを自由に発言してもらいましょう。給料が月に500バーツ増えるよりも、皆んなでお寺にタンブンに行けることの方が幸福だという場合もあるのです。

また、いま自分たちが不幸だと感じていることについても忌憚なく声をあげてもらいましょう。これをやられたら辞めたくなるということを書いてもらうのです。

忘れてはいけないのは、従業員の不満にはちゃんと耳を傾けますよという姿勢を見せること。そうしてできることから改良していくのです。

「心」で社員と会話をしてください。そうすれば必ずエンゲージメントを高められます。私は過去にこの方法で日本企業の問題点を解決してきました。実行あるのみです。

以上、タヌデート先生の講義のエッセンスをお届けしました。実際の講義では、さらに細かな事例や具体例をまじえながら、タイ人スタッフのモチベーションをあげ、定着率をアップさせる人事制度の設計や運用方法が披露されました。

すぐに役立つ、明日から使えるノウハウが得られる日経ビジネススクール(NBS)アジアにこれからもご期待ください。

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執筆 三田村 蕗子

日本のビジネス誌、流通専門誌、ビジネス書を中心に活動するフリーライター。2014年11月、拠点をバンコクに移し日本とタイを行き来する。鋭い視点で、活気づくタイとASEANのビジネス事情を取材している。

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