Blog 離職率を食い止める鍵は、会話の質にあり?日本人と働くタイ人135名の本音。

2018年08月13日 (月)

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タイ人とのコミュニケーションで見直したい、3つのポイント。

2017年、日本とタイは修好130周年という記念の年を迎えました。しかし、よくよく振り返ると、私たち日本人とタイ人の関係はそれよりもずっと昔、16世紀末に始まった朱印船貿易に遡ります。それから約300年、月日を経て多くの日本企業がタイへと進出し、日タイ連携が進められてきました。2017年、タイに拠点を置き活動が確認された日系企業は5,444社(出典:JETRO – タイ日系企業進出動向調査2017年)。日本人駐在員も代を重ね、タイ側のノウハウも蓄積され、企業の現地化へと舵が切られています。

しかし、いざ現地化となると、タイ人マネジメント層の育成が大きな課題として浮上してきました。採用してもすぐ辞める、毎年の昇給は避けられず、優秀な人材獲得にはそれなりの報酬が必要、管理職への昇格を提案しても本人が希望しない等…現地法人で働く多くの日本人駐在員が、タイ人との協業に様々な課題を抱えています。

従業員を定着させる方法として「給与」を挙げる方は少なくありませんが、本当にタイ人はお金しか見ていないのでしょうか?実はそんなことはありません。日々のコミュニケーションを改善することで、従業員にやりがいを提供し、会社に対してのエンゲージメントを上げることも可能です。

今回は、在タイ日系企業に勤めるタイ人従業員50名と日本語を話すタイ人85名にアンケートを実施。日々の業務で日本人に対して思うことや自分自身の課題を調査し、従業員の定着率アップに必要な、コミュニケーションの方法について考えてみます。

ポイントは3つです。

01 実は「お互い理解し合っていない」ことを理解する。

日本人とタイ人では思考のアプローチ方法が異なり、理解の仕方が異なります。”教えた”ようで教えていなく、”分かった”ようで分かっていません。

異文化マネジメントに焦点を当てた組織行動学を専門とするエリン・メイヤー(Erin Meyer)氏は、著書「異文化理解力」で思考法について2種類あると述べています。一つは原理優先の思考法、もう一つは応用優先の思考法です。原理優先の思考法は、学校教育と同様で、行動に移る前に「『なぜ』上司はその要求をしたのか」を理解したがりますが、応用優先の思考法では「なぜ」よりも「どうやって」に重きを置く傾向にあります。

日本人は、応用優先の思考法ですが、タイ人は、どちらかというと原理優先の思考法です。「なぜ」の説明が必要で、学校のように原理からきちんと学びたいと考えます。一般的に日本人は、「なぜ、そうするべきか」の説明がないまま指示を出すため、タイ人が本質を理解できず、求められた結果を出すことができないのです。

02 話す場、話す時間をきちんと設ける。

優れた通訳でも、会話の根底にある双方の価値観や思いを踏まえた言語の変換には時間がかかります。同じ日本人同士、タイ人同士の会話のようにスピーディには進みません。急がば回れ。覚悟を決めて、「とことん話す」「理解し合えるまで話す」、そのための時間をしっかりと設けましょう。

03 コミュニケーション方法の精度を上げる。

会話そのものの精度を上げる工夫も大切です。一方的な「指示」ではなく、指示の根底にある理由、どのようなゴールに向けて議論をしているのかを明確にし、会話の前にポイントを整理したり、アジェンダを用意する、議論の際には積極的に紙に書き、イメージを見える化することも重要です。また、社内の通訳や自分の英語力に自信がなければ、その議論のレベルにあった外部通訳の利用もおすすめです。どこの通訳を使うにしても、整理された日本語、丁寧な日本語を心がけることも大切です。

タイ人の仕事に対する価値観、ものの考え方の違いについて理解して欲しい!

在タイ日系企業に勤めるタイ人従業員50名のアンケート結果は下記の通りです。転職の多いタイ人と言えど、勤続3年以上の方が半数近く、管理職・マネジメント層の方は36%、40歳以上の方は半数を超える62%でした。

※このアンケートは、タイに拠点を置く地方銀行19行が5月11日にバンコクで行なった「タイ日系企業ビジネス交流会」参加企業(481社588名)の皆様にご協力をいただきました。

mirai campus タイ人調査

彼らに2つの質問をしてみました。一つは、「タイ人が日本人に理解してほしいことは何か?」、もう一つは「タイ人が日本人から学びたいことは何か?」です。結果は、下記のようになりました。

タイ人が日本人に理解してほしいことの第一位は、「タイ人の仕事に対する価値観、ものの考え方の違いについて理解して欲しい」。タイ人が日本人から学びたいことの第一位は、「日本企業の考え方や日本式経営について学びたい」についてでした。日本人に理解されないという苛立ちを抱えつつも、自分の勤める会社や日本について、もっと理解を深めたいという前向きな気持ちも伺えます。

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一方、第二位の「仕事の指示をより具体的に、明確にして欲しい(仕事の指示がわかりにくい、曖昧) 」や第三位の「タイ人のキャリアパスについてしっかりと設計して欲しい」という回答には、冒頭で申し上げた原理優先の思考法の影響や、日本の長期雇用を前提とした人事制度の考え方が影響しているようです。上司の背中を見て覚える、という考え方や長く勤めれば給料も役職も上がるという日本式人事制度は、タイ人にはなかなか理解し難いものがあります。

三位以下の回答結果は下記の通りです。

アンケート回答結果全項目

Q 会社の業務をより円滑に行えるように、日本人駐在員に理解して欲しいタイ人の価値観・文化など、該当のものがあればチェックをお願いします。(複数回答可)

01 タイ人の仕事に対する価値観、ものの考え方の違いについて理解して欲しい ー 24名(48%)
02 仕事の指示をより具体的に、明確にして欲しい(仕事の指示がわかりにくい、曖昧) ー 20名(40%)
03 タイ人のキャリアパスについてしっかりと設計して欲しい ー 15名(30%)
04 仕事の課題を解決する、判断するための能力を身につけて欲しい(本社の確認が多い) ー 13名(26%)
05 正当な評価基準を設け、明確な報酬の条件やルールを決めて欲しい ー 12名(24%)
06 タイ人の意見を聞き入れて欲しい ー 11名(22%)
07 職場内のタイ人を皆平等に扱って欲しい(同じタイ人の中で贔屓をしないで欲しい) ー 9名(18%)
08 タイ人の価値観にあった職場の雰囲気作りをして欲しい ー 9名(18%)
09 タイ企業の(タイ人に合った)人事制度の事例を知って欲しい ー 9名(18%)
10 タイ人に対する差別意識をなくして欲しい(タイ人を大切に扱って欲しい) ー 8名(16%)
11 タイにおける尊敬される上司の条件や振る舞いを学んで欲しい ー 8名(16%)
12 業務内容と業務量を適切に振り分けて欲しい ー 7名(14%)
13 基礎的な会計業務、総務などを学んで欲しい ー 1名(2%)

Q 自分自身の感じる課題(勉強したいこと)について、該当のものがあればチェックをお願いします。(複数回答可)

01 日本企業の考え方や日本式経営について学びたい ー 25名(50%)
02 日本人上司に対する報告、連絡、相談(ホウレンソウ)の仕方ついて学びたい ー 22名(44%)
03 部下の育成方法(新人教育方法)について学びたい ー 28名(36%)
04 業務のタスク管理方法(時間配分や優先順位付け)について学びたい ー 14名(28%)
05 自分の意見を伝えることや、提案することについて学びたい ー 12名(24%)
06 業務上の問題や課題に対して、自分で考えて解決する方法について学びたい ー 11名(22%)
07 仕事に対する意識やモチベーションを維持する方法について学びたい ー 11名(22%)
08 管理職がすべきプロジェクト管理方法について学びたい ー 10名(20%)
09 部下に対する仕事の与え方や進捗管理について学びたい ー 8名(16%)
10 会社のお金や資産、コスト管理について学びたい ー 7名(14%)
11 管理職に昇進するための心得について学びたい ー 7名(14%)
12 管理職がすべきチームマネージメント、モチベーション管理について学びたい ー 5名(10%)

日本語通訳の悩み…主語がない、ポイントを言わない、質問の答えになっていない。

日本人とタイ人、二つの国の協業に欠かせない存在が「通訳」です。彼ら、日本語を話すタイ人は一般に「日本語人材」と呼ばれ、企業所属の通訳からフリーランスの通訳、イベントのMCや旅行ガイド、ブロガーまで様々です。巧みな言語能力を使って、通訳としてではなく自ら事業を営む方や、企業や組織内でアドバイザーとして活躍される方もいます。2015年、タイ国内の日本語学習者は世界第6位の約17万人(出典:JAPAN FOUNDATION – 2015年度海外日本語教育機関調査)。増加率は2012年の前回調査結果から+34%と上位5ヶ国を大きく上回り、タイ人の日本への興味の強さが伺えます。

今回は、在タイ日系企業や展示会、商談会等のビジネスの場で活躍する日本語人材85名にアンケートを実施。日々の業務で感じる悩みを聞いてみました。アンケートに回答してくれた方々の属性は下記の通りです。

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日本語を使った業務経験年数は半数以上が10年以上、約7割の方が日本語能力試験1級(N1)所持者です。アンケートの回答者で最も経験をお持ちの方は今年で73歳、タイ王室と日本の皇室の通訳も務めた大ベテランです。

使える言語は、タイ語と日本語以外に英語が8割以上、中国語、フランス語、ドイツ語を扱う方もいます。携わったことのある業種は、製造業、食品飲食業、観光業が多数を占めていますが、最近では、金融や保険、ITやデジタル等の分野も増えてきています。約4割の方は、日本国内での業務経験をお持ちでした。日本語能力試験以外の日本語関連資格として近年注目されているのが「BJTビジネス日本語能力テスト」です。ビジネスの場面で必要とされる日本語のコミュニケーション能力(その中でもヒアリングに重点を置いています)を測定するテストで、日本語能力試験1級(N1)所持者でもBJT最高点のJ1+獲得は至難の技です。

彼ら日本語人材の日々の課題や悩みを聞いてみました。日本語そのものの難しさを課題とする方や、日本人とタイ人の間をとりもつ役割としての苦労や気遣いについて意見があがりました。

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あえてハッキリと表現しない日本語には、「行間を読む」ことや「建前と本音」を読み取ることが求められます。「石の上にも三年」と言ったことわざや慣用句に苦戦される方も多いようです。日本語はタイ語よりもおよそ1.5倍ほど語彙が多い言語といわれ、「が」「を」「に」等の助詞もタイ語に通訳する際に難しいポイントとなります。「”は”と”が”の使い分け」という研究テーマは、日本語を学ぶタイの大学生にとって永遠のテーマであり、数多くの論文が存在しています。

この他、いくら通訳しても理解されない「価値観の違い」について言及される方もいました。言葉の問題ではなく、日本という国、タイという国から理解をしないと伝わらないことも多々あります。

実は、日本人とタイ人はどちらもハイコンテクストな国民性=空気を読み合い気を使う国民性と言われています。こうした共通の価値観は良い面もあれば、悪い面もあります。問題の原因や事実が分からない、要求が不明確でどうしたら良いのか分からない、分かっていないのに分かったと言ってしまう等、正確な情報が求められる仕事の場面では、問題となる場合もあります。

定着率アップの鍵は、コミュニケーションの改善にあり?!

多くの日系企業がタイ人の離職率に頭を悩ませていますが、離職を食い止める方法は給与だけではありません。入社時こそ給与を重要視するタイ人ですが、一旦入ってしまうとその優先順位は、自己成長や仕事へのやりがい、安定性や職場環境の良さを重視するという調査結果もあります。将来のために今を我慢する日本人とは違い、タイ人は今、この瞬間の居心地の良さを求めます。

お互いの理解や納得には時間がかかりますが、現地化を推進し安定軌道に乗せるためにも、円滑なコミュニケーションはますます重要なポイントとなってくるでしょう。

「お互い理解し合っていない」ことを理解し、
話す場と時間をきちんと設け、
コミュニケーション方法の精度を上げる。

ただの会話、されど会話。
日々交わされる会話だからこそ、もう一度自身のコミュニケーション方法を見直してみてはいかがでしょうか。

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執筆 mirai campus

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