Blog 「優秀ですぐに働ける人材」を確保せよ!CP ALL のスーパー青田刈り戦略

2018年05月22日 (火)

事例紹介
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4年間で8回、各学期ごとのインターンが義務

タイ随一のイノベーティブな企業として知られるCP ALL。社内にも、外部の連携においてもイノベーションを生み出す仕組みが随所に施されていることは前号で紹介した。

今回フォーカスするのは、そのCP ALLが母体となって2007年に設立した大学、パンヤーピワット経営大学(PIM)の教育システムだ。自らの頭で考え、イノベーションに挑む人材を育成し確保するシステムはイノベーションそのものといえる。まず、PIMが掲げる3つのバリューを紹介しよう。(以下の動画は同校の紹介VTR)

プラクティカリティ、イノベーション、モラリティ。社会倫理を踏まえた実践的なイノベーションの創造がPIMの本質だ。そのPIMの教育は4つの要素で構成されている。

1. 勉強
2. インターン
3. 教師陣による研究
4. 全体のネットワーク

2番目に挙がっているインターンはPIMの最大の特徴だ。フードビジネスマネジメント、ビジネスアドミニストレーション、エンジニアリング&テクノロジーなど全10学部の学生は例外なく4年間で8回、各学期ごとにインターンを義務付けられている。1年目は学部を問わず、全員セブン−イレブンにインターンに出向き、2〜4年になるとモダントレード学科のみセブン−イレブンに、他の学部性はCP ALLの幅広いネットワークを生かしてさまざまな企業に派遣される。

インターンで求められる内容は年次によって異なり、1年生は問題を拾い上げるだけだが、4年生になると課題を自ら解決しなければならない。インターン先がセブン−イレブンであれば、「こうした商品を売ってみたい」「作業をこうして効率化したい」というアイデアを実現し、店で「売ってみる」「使ってみる」というプロセスを経て、自らのアイデアの有効性を実証していく。

「店舗のスタッフは、作業に慣れてしまっているので疑問が湧きにくい。外部の人間が行くからこそ気がつく問題点や改善点がある」(PIMのラートチャイ・スタマノン博士)。

1年次からインターンがあることにも驚くが、その期間も異例なほど長い。例えば工学部の学生の場合、4年になると9ヶ月もの時間をインターンに費やしている。

「4年の段階ではもうインターンというより一社員。中身のある仕事をやらせてもらっている」

PIM

インターンといっても単なる補助でもなければ、アシスタントでもない。PIMのインターンは派遣先企業の業務にしっかりと食い込んでいることがおわかりだろう。

現場経験を経て学生が生み出したアイデアを評価する場も年に2回、開催している。CP ALLやグループ会社に加えて、役所からも審査員を招き、順位はつけず、クライテリアを満たしたアイデアを表彰するコンテストだ。ここから、セブン−イレブンの売り場商品の曲がった値札を簡単に交換するツールや、通るだけで子豚の数を自動的にカウントできる農場用のゲート、食物繊維を混ぜて栄養価をアップしたハンバーガーといったアイデアが生まれ、実用化された。

「現場で学び、課題を拾って解決し、競い合うステージを用意する。このループを回すことで新しいイノベーションが生まれていく。発表して終わりではなく、実際に使えるアイデアであることが重要だ」

「Ready to Work」の人材を育てるスーパー青田刈りシステム

PIMには企業クラスルームという制度もある。卒業後は2年間必ずその会社で仕事をするという条件で、30人〜40人のクラス全員に企業が奨学金を提供する制度だ。

奨学金の額は、授業料に該当する20万バーツ〜30万バーツ。フードビジネスマネジメントの学部生を丸ごと買い取っているCP FOOD(CP ALLの子会社で食品メーカー)に加えて、ステーキレストランのサンタフェ、携帯キャリアのTRUE、業務用スーパーマーケットのマクロ、ミッポン(タイの製糖会社)といったそうそうたる大企業が企業クラスルームを抱えている。中国語学科30人の授業料を全額負担しているのはキングパワー(免税店チェーン)。一部の学生に同様の条件で奨学金を出している企業となると数百社におよぶ。いずれもビジネスの先を見据えた先行投資だ。

奨学金を受けている学生の割合は、全学生1万4000人中8割。そのうち60%がセブン−イレブンからの奨学金。誰に奨学金を出すかの企業判断は、学生をキャンプなどのイベントに招き、CEOと面会した上でリクルーティングしているという。

「企業クラスルームのコンセプトは『Ready to Work』(すぐに働ける)。すでに現場も仕事内容も理解しているから、入社後の教育が必要ない。性格も把握できている。それを考えれば企業にとって4年間の投資は安上がり。奨学金が税金控除の対象になるのもメリットだ。PIMとしても売上を読みやすく予算を立てやすい利点がある」

インターンを通して仕事内容や企業風土を熟知し、卒業後は社員として確実に2年間働いてくれる人材を入学時点で確保できる–。まさに「スーパー青田刈りシステム」だ。

カリキュラム全体を通して自らの頭で考える人材教育にも余念がない。

「学生に考えることを教えるには、まず枠を与えること。最初から枠がないと何を考えていいのかわからない。枠を与えた上で、大きくしたり小さくしたり、あるいは重要な機能を削ることでなにか別のものに置き換えられないかという発想に導いていくことが重要だ。アイデアを実用化したときの原価計算やプレゼンの技術も教えている。社会人になれば上司に提案をするとき短い時間で要点をまとめる必要がある。しゃべりが下手ではせっかくのアイデアも生かせない。30秒でポイントを伝える練習を繰り返している」 

シリコンバレーのワークショップを参考に、「スタートアップを育てるための3日間のキャンプ」も実施中だ。わずか3日間でアイデアを出し、実証までこぎつけるのは容易ではないが、ラートチャイ博士はむしろ失敗を推奨する。「早く失敗した方が早く成功できる」からだ。

CP ALLのグループ会社であるTRUE(携帯キャリア会社)と連携した「デザインシンキング」というイベントにも触れておこう。優秀なアイデアに20万バーツを投資するという内容だが、投資には「法人化する」という条件を設け、法人登記できる場所をCP ALL側で用意しているそうだ。学長判断でゴーサインが出れば学生はインターンに行くことなく、自らのアイデア実現に専念できる。学生の可能性を伸ばすための特例だ。

このようにあらゆる確度から「考える人材」「すぐに働ける人材」育成につとめているPIM。しかし、中には、こうした教育制度に馴染めない学生もいるはずだ。アイデアが出ない、アイデアを実践するのが得意ではない。そうした学生に対するラートチャイ博士のスタンスははっきりしている。

「チャンスは平等に与えているが、中には考えるのが不得意な人もいるのは事実。そうした人を伸ばすより、得意な人を伸ばすことにウエイトを置いている」

自分のアイデアを社会で早く実証したいと考える学生。自分の頭で考え、自ら動く人材を効率よく確保したい企業。両者をつなぐPIMの教育システムはあきれるほど合理的かつ実践的だ。PIMのこの制度をそのまま取り入れることは難しいにしても、イノベーティブな人材育成という観点から学び、参考にできることは多いのではないだろうか。

ご案内:PIMでは、インターンを受け入れてくれる企業を募集しています。ご興味のある方は、PIMまでお問い合わせください。

三田村 蕗子の画像
執筆 三田村 蕗子

日本のビジネス誌、流通専門誌、ビジネス書を中心に活動するフリーライター。2014年11月、拠点をバンコクに移し日本とタイを行き来する。鋭い視点で、活気づくタイとASEANのビジネス事情を取材している。

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