Blog 巨大財閥と米中貿易摩擦、経済を支える4つのエンジンとは?「タイの経済を知る」開催

2019年07月03日 (水)

講座紹介
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2019年6月18日(火)、チュラロンコン大学経済学部助教授ピティ・シリサンナム氏をお招きし、日経ビジネススクール(NBS)アジア2019特別講座の第2回「タイの経済を知る」を開催しました。本講座では、日本人の多くのが気になるタイの財閥や今後のタイ市場の成長予測を中心とした講義に加え、受講者からの多くの質問にも答えていただきました。Q&Aセッションの様子はこちらでご覧になれます。

タイの全人口約7,000万人のうち、約4,700万人分の資産を保有する財閥

2018年、タイのGDP成長率は4.1%でした。しかし、多くの一般庶民は、その成長率を実感できていないのが現状です。それはなぜかでしょうか。タイのGDP成長率を牽引するのは、一部の大企業、一部の産業分野のみで、全体の底上げには繋がっていないのが実態なのです。

タイでは、人口の約10%が国全体の資産の約8割を保有し、人口のたった1%が国全体の約半分の資産を保有していると言われています。中でも、5大財閥と言われる、CPグループ、セントラルグループ、Red Bullグループ、タイビバレッジグループ、そして、キングパワーグループは、タイの全人口の約7,000万人のうち、約4,700万人分の資産を保有していると言われています。

本講座では、主要財閥としてタイでセブンイレブンを展開するアジア最大級の巨大財閥「CPグループ」、小売・百貨店経営の王者「Centralグループ」、Red Bullの創始者ファミリー「Yoovidhya Family」、Changビールのタイ・ビバレッジを率いる「TCCグループ」、タイの免税店 King Power を運営する「Srivaddhanaprabha family」、タイで最も歴史が長く、現在2番目に大きい「SCGグループ」、また財閥以外のキープレイヤーとして不動産界の雄「Sansiri Group」とエネルギー業界でトップを走る「PTT」を取り上げ、ビジネスの特徴や成り立ちを解説しました。

タイでは、こうした少数の大企業が様々な分野でビジネスを展開しており、その力は衰えるどころか、益々勢力を拡大しています。外国の企業がタイで事業を展開するには、これらビッグプレーヤーに正面から戦いを挑むより、いかに巻き込み、パートナーとして協力関係を築くかが重要になってくるでしょう。

タイ経済をA380の4つのエンジンに例えて

次にピティ先生は、タイ経済をエアバス社のA380に例えて解説しました。

エアバス社のA380は、エンジンを4つも搭載し、一度に500人を運べる超大型飛行機として注目を集めました。最先端の技術が結集し、まさに史上最高の飛行機と言っても過言ではありませんでした。ところが、このA380はすでに生産が終了しています。それはなぜでしょうか。実はこの超大型航空機、発着できる飛行場が世界にあまりありません。それに、大陸間をまたぐほどの長距離移動を求める顧客ニーズは、実際どれほどあるでしょうか。A380は、そのような点を考慮せずに作られた飛行機なのです。

一国の経済を語る時にも同じことが言えます。自国のみにフォーカスして考えていては、大事なことを見落としてしまいます。周囲の状況、前提条件などを抑える必要があるのです。

では、タイ経済をこのA380の4つのエンジンに例えてみましょう。タイにおける4つのエンジンは、①個人消費、②投資、③財政支出、そして④輸出です。タイは輸出のエンジンが異常に大きい。つまり、輸出への依存度がかなり高い国なのです。

米中貿易摩擦により、タイの輸出産業もかなり影響を受けました。2018年後半からの輸出減に伴い、過去5年間上昇し続けたGDP成長率も、ピークを越えてしまった感があります。GDP成長率4.1%であった2018年でさえ、予想を下回るものだったのです。2019年は、これまでよりもはるかに厳しくなるでしょう。2019年第1四半期のGDP成長率の予測は前年比の2.8%ですが、全四半期と比べると1.0%しか成長していません。

GDPの内訳を見ても、付加価値の高い製造業は低迷し、付加価値の低い飲食業界やホテル業界など、サービス業が成長しています。

4つのエンジンのうちの3つ、①個人消費、②投資、③財政支出を見てみましょう。特に個人消費が4.6%の伸びを記録し、好調です。これは、最低賃金が300バーツから325バーツに改定されたことも一因かもしれません。また、投資や財政支出も3%超成長しています。しかしながら、最も大きいエンジンである輸出の低迷をカバーし、経済全体を押し上げるほどの力は持っていません。

米中貿易摩擦の影響とタイ経済のこれから

さて、これだけタイ経済に影響を与えている米中貿易摩擦の今後のタイ経済への影響はどのように考えられるでしょうか。簡潔に言えば、短期的にはネガティブ、長期的にはポジティブな影響を及ぼすと考えられます。短期的でネガティブな影響としては、次の3つが挙げられます。

一つ目は、アメリカや中国向けの輸出が減ること。二つ目は、アメリカや中国向けに生産された製品がASEAN向けに切り替わることで、タイの競争力が落ちること。三つ目は、アメリカでも中国でもない、第三国への輸出競争が激化することです。

しかし、長期的な視点に立つと、ポジティブです。アメリカ向けに中国で生産されていた製品や中国向けにアメリカで生産されていた製品の生産移管が起こり、その拠点がタイに移ることが期待できます。また、中国への投資が第三国に向くことも考えられます。実際に、日本と中国が第三国に共同で投資することを発表しています。その投資先の一つが、スマートシティを掲げるタイ東部のチョンブリー県です。

米中貿易摩擦以外にもタイ経済に影響を与える、注視すべき点がいくつかあります。

一つ目は、タイ国内の政治状況です。4月に総選挙を終えましたが、現時点で新内閣の閣僚が決まっておらず、今月の予算も執行できない状況です。また、与野党のパワーバランスも拮抗しており、新政策が打ち出しにくい状況となっています。二つ目は、世界経済の成長鈍化です。輸出依存度の高いタイは、大きな影響を受けるでしょう。また、イギリスの欧州連合離脱(BREXIT)による金融面での影響も考えられます。しかし、そんな中でもJPモルガンは、投資先としてASEANは安全であり、中でもタイが最も安全だと発表しています。IMD(IMD World Competitiveness Centre)の発表する国際競争力ランキングにおいても、タイは2018年の30位から25位に上昇しました(日本は25位から30位に順位を下げています)。

タイ国内でのインフラ投資も順調です。バンコク市内を中心とした鉄道網は徐々に拡大を続け、この先数年以内には、東京の山手線のようにバンコク市内を一周する路線も完成予定です。タイの全77県のうち44県しかカバーできていない長距離路線も整備を続けています。また、タイ、ラオス、中国を結ぶ鉄道の建設も3か国間で合意しており、これから建設が進んでいくことになります。

また、タイの少子高齢化問題も今後のタイ経済に影響を及ぼす要素の一つです。タイではすで高齢化が始まっており、2040年には超高齢化社会を迎えると言われています。労働力不足の問題や高齢者の医療環境や住環境が課題となります。逆に、先に高齢化社会を迎えている日本にとってはビジネスチャンスにもなるでしょう。

政情不安や輸出依存度の高さ、財閥の巨大化や少子高齢化など、タイの経済を不安視する要素は様々とありますが、スタートアップ産業の成長や個人消費、国内インフラ投資の拡大など好材料もあります。中国勢力の拡大は悪い面だけでなく、ASEAN地域の活性化には良い面もあるでしょう。中でもタイは、地理的にもASEANの重要拠点となっていくことは間違いありません。4つのエンジンのうち、もっとも大きい輸出依存度の高さは今後もあまり変わりませんが、タイは自国の強みを活かして経済の活性化を進めていくことになるでしょう。

※Q&Aセッションの様子はこちらでご覧になれます。

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執筆 mirai campus

mirai campus の運営事務局。

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