Blog 「タイの経済を知る」開催|Q&Aセッション13問

2019年07月03日 (水)

講座紹介
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2019年6月18日(火)に開催した日経ビジネススクール(NBS)アジア2019特別講座の第2回「タイの経済を知る」について、多くの質問が寄せられたQ&Aセッションの様子をお届けします。講座の様子はこちらでご覧になれます。

Q&A一覧
Q.01 ほとんどの財閥は「中華系」とのことですが、移民なのでしょうか。
Q.02 純粋なタイ人の成功者はいるのでしょうか?
Q.03 アジア通貨危機で解体した財閥はありますか?
Q.04 財閥同士はどのような関係を築いているのでしょうか?
Q.05 タイの財閥はかなり強いですが、ニュープレーヤーが入り込む余地はあるのでしょうか?
Q.06 製造業以外で伸びそうな業種はありますか?
Q.07 財閥の選挙への影響はあるのでしょうか?
Q.08 一般庶民の財閥に対する考え方や見方はどうでしょうか?
Q.09 タイの人々は「軍事政権」についてどのように見ていますか?
Q.10 東部経済回廊(EEC)の進捗はどうですか?政局が変わったことによる影響はありますか?
Q.11 米中貿易戦争をタイ企業はどう見ていますか?
Q.12 日系企業が、タイ企業とともにさらに成長するために大切なことは何ですか?
Q.13 ピティ先生は、経済学の先生として学生にどのようなことを教えていますか?

Q.01 ほとんどの財閥は「中華系」とのことですが、移民なのでしょうか。

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中国人のタイへの進出は、いくつかの時代に分けることができますが、一つは300~400年前のアユタヤ時代が大きなポイントになっています。中国本土の自然災害や食糧難のために、豊かさを求めてタイにやってきた中国人がいます。タイでは彼らに称号を与え、商売を任せることにしました。その理由は大きく2つあります。

一つ目は、当時のタイの庶民(農民)には、参勤交代のような制度が課せられており、農業をしながらも、定期的に都を訪れることが義務付けられていました。そのため、安定して商売に割く時間も労力もなかったのです。二つ目の理由は、タイ人自身が商売下手であるということを認識していたことが挙げられます。苦手な商売を中国人に任せた(当時は、中国人を上手く活用した)のです。この二つ目の理由は、ヨーロッパ列強の植民地支配が強まった時代において、タイが植民地支配を免れた一つの要因ともなりました。貿易面での交渉を迫られた際に、中国人に商売を任せたことを理由に、ヨーロッパ列強の圧力をうまくかわしたのです。1932年に起こった立憲革命でも、中国人排除の動きにはなりませんでした。タイ人が苦手とする商売を中国人が担っていたからです。

しかし、冷戦時代、中国本土の信用低下に伴い、中華系の人々には「コミュニスト」のレッテルが貼られる事態も起こりました。その時、タイにいた中華系の人々は、苗字を変えることでタイ人として生きる道を選んだのです。それに伴い、アイデンティティもタイ人としての意識が強くなっていきました。先祖や祖父母、両親が中華系であっても、2代目、3代目ともなると「タイ人」としての意識が強くなります。このように、外国にルーツを持つ人々であっても、上手にタイ化させてきたことは、タイの文化の大きな特徴ともいえるでしょう。

Q.02 純粋なタイ人の成功者はいるのでしょうか?

例えば、ドゥシタニグループはタイ資本です。また、今は中華系財閥が目立っていますが、先ほども述べたように中国にルーツを持つ人々も、2代目、3代目ともなれば「タイ人」の意識になります。彼らが自分たちは「タイ資本である」と言えば、もうそれは中華系ではなくタイ系ということになりますし、そうなる日も近いでしょう。

Q.03 アジア通貨危機で解体した財閥はありますか?

あります。特に金融系の財閥です。アジア通貨危機前までは本流とも言われた金融業を強みとする財閥は、アジア通貨危機で破綻しました。今の財閥は、製造系やサービス系を主流としています。

Q.04 財閥同士はどのような関係を築いているのでしょうか?

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まずは「ファミリー」としてのつながりが挙げられます。中華系タイ人は、ファミリーとビジネスが一体化した経営です。かつては、財閥同士の婚姻関係により、ビジネスを拡大させていきました。しかし、それは一方で、共倒れのリスクもはらんでいます。そこに手を打ち始めているのがセントラルグループです。セントラルグループでは、弁護士も交えて家族内のビジネスにおける権利や役割についてルールを作ろうとしています。これまで家族経営で拡大してきた財閥も、より透明性の高い経営にシフトしていくことでしょう。

ちなみに、タイでは「ハイプロフィール」と呼ばれる、誰でも知っている有名な財閥以外に、知名度は低くてもビジネスで大成を収めている「ロープロフィール」と呼ばれる人々もいます。「ロープロフィール」の間でも「The Boss」や「トタンクラブ」といったグループを形成しています。「トタンクラブ」の名前の由来は、トタン屋根の一見みすぼらしい倉庫のような建物で会合を開くことから来ています。ただし、一歩中に入れば、BMWやベントレーなどの高級車がずらりと並ぶ光景を目にすることができます。

「The Boss」の活動例を一つ上げると、「The Boss on the Road」という海外マーケットの視察ツアーがあります。年に2~3回開催されるこのツアーは、各国の在外タイ大使館が訪問の受け入れを担当し、ツアー初日にはタイ大使との情報交換が行われます。ツアー中にはツアーガイドを雇うのではなく、大学から講師を招き、移動時間にブリーフィングを行います。ツアー最終日には、新しいビジネスのアイデアを思いついた人はいるか、そのアイデアを実現するためにパートナーとして組もうと思う人はいるか等、その場でツアーの総決算をし、すぐに行動に移していきます。このようなグループは形式的なものではなく、至る所で起きている現象です。

財閥同士の事業売買もありますが、敵対的なものではなく、事業が傾いているときに助け合うような友好的なものがほとんどです。

Q.05 タイの財閥はかなり強いですが、ニュープレーヤーが入り込む余地はあるのでしょうか?また、財閥独占状態のタイ市場は、この先大丈夫なのでしょうか。

かつて財閥が成功した時と状況と今の状況は異なります。タイでは、Industry4.0を掲げていますが、組織が大きくなれば大きくなるほど、動きは鈍くなり、競争力も落ちます。また財閥には、資本力はあるけれど、アイデアがありません。そこで、各財閥はこの3~5年でベンチャーキャピタルを起こすようになりました。アイデアを持つスタートアップ企業をサポートし、win-winの関係を作ろうとしています。

Q.06 製造業以外で伸びそうな業種はありますか?

製造拠点がタイに移管しているということは、人の移動、流入も増えるということです。日本人もそうでしたが、今後中国からの駐在員も増え、不動産業が伸びることが予想できます。また、人が流入してくることで国内消費も増えるでしょう。その他、農産物や食品は今後も伸びることが予想されます。中国向けの豚肉や鶏肉の輸出は増えるでしょう。

Q.07 財閥の選挙への影響はあるのでしょうか?

財閥は一つの政党だけに肩入れすることはありません。どこの政党が勝ってもメリットを得られるよう分散して投資しています。また、タイの政治家は自分の利益を優先させる傾向にあり、どこの政党が勝っても政策が大きく変わることはないでしょう。日本人からすると危うい民主主義のように感じるでしょうが、アジアから見るとむしろ日本が特異なのです。日本はアメリカの影響を受け、徹底的な民主主義をとっています。様々な意見を持つ人や政党があり、どこの政党が勝つかで国の政策も大きく変わります。また、CSRの側面からも、企業は一つの政党を支持するのが一般的ですが、多くのアジア諸国から見れば、日本のような民主主義のほうが特異であるといえるのです。

Q.08 一般庶民の財閥に対する考え方や見方はどうでしょうか?

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財閥に対する「好き / 嫌い」は、その財閥が政界進出した時に初めて表に出てきます。それ以外の時の一般庶民の財閥に対する考え方は2つに分かれるでしょう。

一つ目はポジティブな視点です。努力は報われると信じており、財閥の人々を知恵のある人、行動して努力した人であると好意的な感情で受け止めている人々です。今は巨大財閥のCPも、最初は中華街でタネを売る小さな商店でした。そうした背景もあって、財閥はロールモデルであるという見方もできます。タイは階級社会ではあるものの、努力をして、時にリスクを取りながらも一生懸命行動すれば、成功するチャンスはあるのだと示しているのが財閥とも言えるでしょう。

二つ目は住む世界が違うと割り切っている人々です。今の貧しさを運命や前世の影響と捉えて多くを求めない人々がいます。一部の富に対して市民が革命を起こしたフランスやロシアの例もありますが、タイではこうした市民によるクーデーター起こらないでしょう。何故ならば、タイでは食糧難で死んでしまうような事態には陥らないからです。生死の境に追い込まれることもないので、逆に財閥を追い込むようなこともしません。数年間前に起きたクーデターも民意ではありません。一部の人の利害関係の衝突で起こっただけのことなのです。

Q.09 タイの人々は「軍事政権」についてどのように見ていますか?

悪い面として、発言の自由が制限され、賄賂の横行などがありますが、このようなことは軍事政権によって発生した問題ではなく、もともと存在していた問題であり、タイの人々は半ば諦めている状況です。一方、良い面としては、政権が安定し、インフラ整備も進みました。東部経済回廊(EEC)計画も生まれ、軍事政権誕生からの5年間で、今まで変わらなかったことが、次々と動き始めたのです。反対デモも起きず(軍事政権が押さえているとはいえ)、世界的なニュースにもならなかったことは、タイの安定性をアピールすることにもなりました。軍事政権は評価できる面も多いでしょう。

Q.10 東部経済回廊(EEC)の進捗はどうですか?政局が変わったことによる影響はありますか?

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前政権に対する評価はおおむね高評価で、今後もEECの政策は加速することが予想されます。タイの政治を歴史的に見ても、野党の影響はほとんどないと言えるでしょう。

EEC地域は経済地理学的な視点から見ても重要な拠点です。中国が構想する「一帯一路」計画では、陸路と海路が交錯する地点がタイであり、中国にとって重要なマラッカ海峡とも接しています。

中国については、歴史的な観点からみても今後覇権を握ることは大いにありえるでしょう。紀元後約2000年を横軸で見ると、約1800年間は中国とインドが世界の勢力の約半分を占めていました。ヨーロッパが経済の中心になったのは約100年間、アメリカに至っては戦後からなので、まだ100年にもなりません。このような歴史的な視点からも、中国がまた世界の中心として君臨することは自然な流れとして理解できます。

また、中国の「一帯一路」構想に対抗して、アメリカの「自由で開かれたインド太平洋」構想がありますが、英語で書くと「Indo-Pacific Strategy」。「Indo」と「Pacific」の間の「-」はまさにASEANのことです。インドと太平洋の間にはASEANが位置する。つまり、ASEAN地域は、中国の「一帯一路」構想でも、アメリカの「Indo-Pacific」構想でも地理的に重要な位置にあるのです。タイの地理的優位性は、アメリカがベトナム戦争中にすでに読み解いており、ウタパオの重要性を認め、当時最大級の空港(ウタパオ空港)を建設しました。

Q.11 米中貿易戦争をタイ企業はどう見ていますか?

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米中貿易戦争については、1980年代にアメリカが日本に仕掛けた状況と同じではないかと思って見ています。2018年末から起きていることとしては、仕入れ先を米中貿易とは関係のないところからにしようとする動きはすでに始まっています。また、2018年10月の日中首脳会談での、安倍首相と習近平国家主席との握手は、驚きをもって受け止めました。また、タイ工業団地の各企業の業績は好調です。中国製をやめてタイ製に切り替える動きが高まっています。

Q.12 日系企業が、タイ企業とともにさらに成長するために大切なことは何ですか?また、外国企業に求めることはありますか?

タイと日本との交流は、世界的に見てもトップクラスであり、密接です。産業から始まった日タイの交流を、今後は、文化、社会、人にまで広げていくことが重要になるでしょう。特に教育の面での交流を広げることが必要ではないでしょうか。すなわち、留学です。留学先の選択肢として、お互いの国が存在感を増すことで、今後の発展につながっていくのではないでしょうか。

また、外国企業に求めることとしては「オープンマインド」です。自国の文化や価値観に固執し、タイを見下したり文句を言ったりするのではなく、タイの文化や価値観を受け入れることで、タイで成長するチャンスが生まれるでしょう。

Q.13 ピティ先生は、経済学の先生として学生にどのようなことを教えていますか?学生に何を目指すようメッセージを送っていますか?

やはり、ラーマ9世が良い見本だと思います。1932年の立憲革命の時など、混沌とした時代にのみこまれそうな時もありましたが、そのような状況の中でも、ラーマ9世は自分ができることを考え、見返りを求めずに行動しました。自分の信念を貫いたのです。その姿勢が一人の人間として心から尊敬できるのです。ラーマ9世のように、生きていく上での理念を教えるようにしています。

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執筆 mirai campus

mirai campus の運営事務局。

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