Blog 2014年クーデターからの5年ぶりの選挙を考察!「タイの政治を知る」開催

2019年06月14日 (金)

講座・セミナー開催記録
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「本当の民主主義」とは何か?タイの政治情勢の未来を探る。

2019年6月11日、日経ビジネススクール(NBS)アジア2019特別講座の第一回目「タイの政治を知る」が開催されました。 2014年に起きたクーデターからおよそ5年ぶりの選挙が行われ、6月11日には軍事政権を率いてきた元陸軍司令官のプラユット氏が正式に第29代首相に就任と、政治の話題に関心が高まる時期とも重なり、多くの方にお越しいただいての講座開催となりました。今回は、その一部を解説致します。

まず前半は、日本経済新聞アジア編集総局長の高橋氏より、タイの政治の歴史から洪水による日系企業の当時の被害状況、自身も体験した2014年の臨場感あふれるクーデーターの現場の様子、歴代首相の功績と転落の詳細などが解説されました。書籍「タイ 混迷からの脱出」の著者である高橋氏ならではの鋭く深い解説を伺うことができました。

総選挙を経て変化するタイの政治。今後の日系企業への影響は?

2014年のクーデター以降、プラユット陸軍司令官が指揮する国家平和秩序評議会が暫定政権として全権を掌握し、軍事政権が続いていましたが、2019年3月24日、ついにクーデター以来初めての総選挙を実施。6月5日には、首相指名選挙が行われ、プラユット政権の続投が決まりました。

選挙と軍事・司法クーデター、デモが繰り返され「失われた15年」と言われていたタイの政治ですが、これまで選挙で圧勝してきたタクシン派が負けたのは今回が初めてです。タイで7割を占める地方出身者や低所得者層の圧倒的な支持を集めるタクシン派に、何故、勝利を収めることができたのか?その理由を高橋氏が解説しました。

「勝利の鍵となったのが、『2017年憲法』です。選挙に強いタクシン派に対して不利な議会・選挙制度にするため、暫定政権は憲法を変えたのです。」2017年憲法によって大きく変更された3点をご紹介します。

1. 下院での小選挙区制の変更。有利な1票投票制へ

1997年憲法以降、下院選挙では、有権者が小選挙区で1票、政党に1票投票する小選挙区比例代表並立制を採用していました。議会で大政党が形成しやすいと言われるこの制度では、小選挙区で獲得した議席数に加え、比例代表議席を多く獲得することができるタクシン派に有利であり、タクシン派が一党で過半数を獲得し強権的な政治をすることも可能でした。

しかし今回の選挙では、タクシン派に有利な小選挙区比例代表並立制を廃止。有権者は小選挙区に1票のみと変更され、特定の政党が議会で多数派を占めることが難しい制度となりました。

2. 事実上、軍事政権が指名する上院議員

従来、定数150の半分は公選、半分は任命だった上院議員ですが、2017年憲法より、上院議員の定員数は200名に拡大され、全てが非公選になりました。

さらに、今回の選挙では憲法に設けられた5年間の経過規定により、定員数を250名まで増加。そして、国家平和秩序維持評議会の助言のものと国王が任命という、事実上、軍事政権が全てを指名できるようになったのです。

3. プラユット氏を首相に。有利な首相指名選挙へ

以前まで、首相は下院議員であることが要件として定められていましたが、今回より、下院議員以外の者が首相になることが容認されました。また、下院のみで過半数以上が条件であった首相指名選挙は、下院と上院で合わせて過半数に変更。両者とも、他党の影響力を押さえ、国家平和秩序維持評議会が影響力を保持し、プラユット氏が政権を取り続ける制度設計と言えるでしょう。

非常に不利な制度でありながらも攻防し、下院選挙で135議席を獲得して第1党となったタクシン派のタイ貢献党は、第3政党の新未来党と共に、政権樹立を目指しました。しかし、首相指名選挙では、中堅政党の民主党が親軍政権への参加を決定し、親軍政党「国民国家の力党」を中心に計19の連立与党を結成、さらに、軍政が事実上指名した上院議員を含む制度の前に敗北という結果になりました。

「国の経済を安定させたと言われるプラユット暫定政権ですが、今回は、19の連立与党であること、また、法案を審議する下院での連立与党議席数が、わずかに上回る規模にすぎないことから、法案を可決できず政権運営が困難になることも考えられます。今後の経済政策や日系企業のビジネスに大きな影響はないと思いますが、不安定な政治状況は今後も続くのでは?」と高橋氏は指摘します。

タイ人が考える、タイの将来は?

休憩を挟んで後半は、高橋氏とガンタトーン氏による対談形式で講座を進行。休憩時間中、受講者の皆さんから集めた質問票を元に議論を進めました。日本人から見たタイの政治とタイ人中流層から見たタイの政治、また、若きリーダーとなれるのか注目の集まる新未来党党首のタナトーン氏の動向など、まさに今のタイの政治の最前線を探る対談となりました。

これからタイの経済を支える若手層で、世界のビジネスや政治を知る中流層でもあり、タイの政治情勢がビジネスに大きな影響を与えることを危惧する経営者としての立場を持つガンタトーン氏の正直な思いや希望が語られる場面が多く見られました。

「タイで民主主義は可能なのか?」受講者の方から最後に投げられた質問に、高橋氏はこう答えました。「そもそも『民主主義』とは何でしょうか?民主主義と一口に言っても、国によって選挙・議会制度は全く異なります。民主主義でも経済状況が悪化している国もあります。イギリスのチャーチル元首相が、民主主義はベストではなく、他よりベターであると話したことがあるように、民主主義が一番良いとは言い切れません。国が安定して平和であれば政治体制は気にしないという意見もあります。タイに合った政治体制を見つけることができれば良いですね。」

在タイ日系企業の安定操業と発展には政情以外にも様々な課題がありますが、今後も今回のような熱く深い議論が交わされる講座をお届けできるよう、情報収集に努めてまいります。

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執筆 mirai campus

mirai campus の運営事務局。

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