Blog みんな自分の意見ばかりでちっとも前に進まない!優秀なプロジェクトマネージャーはどう育つのか?

2019年09月20日 (金)

企業取材記
みんな自分の意見ばかりでちっとも前に進まない!優秀なプロジェクトマネージャーはどう育つのか?のメイン画像

「project」の語源はラテン語の pro + ject に由来し、「前方(未来)に向かって投げかけること」という意味を持つそうです。NASAでは「相互に関連するタスクから構成され、多くの組織が参画して実施される3年以下程度の期間の活動」と定義されています。企業活動においても事業変革や新規事業開発といった場面でプロジェクトが組まれることはありますが、こうした大きな目標を持たずとも、私たちの周りには日々、大小多くのプロジェクトが動いています。企画からスケジューリング、進捗管理、起こった問題にいち早く対処し、社内の上司や部下、クライアントとの折衝に奮闘…。

こうした『プロジェクトをマネジメントする』という仕事に国際資格があるのをご存知でしょうか。PMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)は、米国に拠点を置くプロジェクトマネジメント協会(PMI)の本部が認定しているプロジェクトマネジメントに関する国際資格です。今回は、このPMP資格保有者であり、タイにおけるプロジェクトマネジメントのプロとして企業研修やコンサルタント、大学院教授を務めるパイブーン氏をお招きし、プロジェクトマネジメントについてお話を伺いました。

プロジェクトマネージャーは「旅のしおり」を作る人であり、共に歩む人

ガンタトーン:
駐在員の皆さんとお話をすると、よくこんな悩みを聞きます。「タイ人は自分の意見ばかりを主張し、具体案や数的根拠が出てきません。」「タイ人は保守的ですか?新しいことをやろうとすると反論ばかりで全く動かない…」「『もっと自由にやらせてほしい』と言われるがタイ人に任せるのが不安でつい口を挟んでしまう…」。確かにタイ人は事実と意見の違いがあまり区別できていないように感じます。アイディアは出すものの、実現に向けた具体的な提案書の作成や事実確認が弱いという指摘は納得です。一方で、日本人も確認や報告、いわゆる報連相が細かすぎますし、石橋を叩いても渡らないという慎重すぎる面もあるのではないでしょうか。

パイブーン氏:
報連相は仕事を進める上で非常に有効な考え方だと思います。僕も過去に日本人上司との仕事経験からその重要性は理解しています。意見の対立で揉めるというのもよくある職場の課題ですね。私は、日本人やタイ人といった国籍に関わらず、仕事をする上では2種類の考え方を持った人間がいると思っています。ひとつは「どんなことでも可能にできる!」と考えるアイディアマン。もうひとつは「すべてのものには課題がある!」と考えるリスクマンです。

ガンタトーン:
「大丈夫大丈夫、お前ならできるよ!」と実際の作業の大変さを無視して無茶振りをしてくる上司に腹立つ部下の気持ちや、部下の考え抜かれていない、夢ばかりが詰まった稚拙なアイディアに苛立つ上司の気持ちを想像するとわかりやすいですね…(苦笑)。


パイブーン氏:
そうですね(笑)。両者の意見は常に対立し、折り合いをつけるのはなかなか難しいものです。この対立する両者の間に入り、実現可能か不可能か?をロジカルに且つ早いスピードで判断できるようにするのがプロジェクトマネジメントの仕事なのです。また、プロジェクトマネジメントと報連相が異なる点は、最初にゴールとプロセスが見えてるかどうか?です。

例えは、「バンコクからチェンマイへ行く」というミッションを持った二人一組のプロジェクトがあったとしましょう。報連相はそのミッションの道すがら「今どこかな?どっちへ行く?今晩はどこで泊まろうか?」と常に進捗を確認して話し合っているのに対し、プロジェクトマネジメントは「旅のしおり」が最初に全て揃っていて、それを見ながら歩みを進めているということです。

プロジェクトマネージャーは「旅のしおり」を作る人であり、共に歩む人なのです。


ガンタトーン:
なるほど。目的地であるゴールとそこへの行き方、また途中で何が起こるのかが分かっている状態を最初に作るということなんですね。

パイブーン氏:
そうです。「旅のしおり」があることで先行きの不安が軽減されるため、報連相の時間もぐっと減ることになりますね。逆に、アイディアの実現にかかる作業工数や人的リソース、費用、時間、リスクを「見える化」することで「これは無理だ。実現不可能だ」と関係者に納得してもらうことも可能です。色々な人の意見を事実に変えるのがプロジェクトマネージャーの仕事ともいえるでしょう。

一番難しい「リスク管理」。ベテランと未経験者をどうつなぐのか?

ガンタトーン:
プロジェクトマネジメントについて教えてください。

パイブーン氏:
プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル(通称PMP)は、プロジェクトマネジメントに関するノウハウや手法を体系立てたガイドブックPMBOKを発行するアメリカの非営利団体PMI(Project Management Institute)が認定する国際資格です。PMBOKでは、プロジェクト管理を10の「知識エリア」と「5つのプロセス」に整理しています。「知識エリア」とは、プロジェクトを進める上で管理するべき重要分野で、幅広いプロジェクトに適用可能にするため、従来製造業の現場で使用されているQCD(品質・原価・納期)の概念に加えて、目標に至る過程で管理するべき様々な要素を含めた10の分野で構成されています。

プロジェクトマネージャーは、上記の要素を踏まえて、次の5つのプロセスでプロジェクトを完了まで持っていくのがミッションです。①タスク出し、②プランニング、③リスク管理、④実行、管理、⑤終結です。


このプロジェクト管理のために作業を分解し構造化する手法をWBS(Work Breakdown Structure)と呼びます。WBSを導入することで、各作業に必要な資源や所用時間、要員が明らかになります。WBS作成後はガントチャートを使用してスケジュールに落とし込みます。プロジェクトの全体像が見えると関係者間で共通認識を持つことができますね。進捗確認も容易になり、作業の抜け漏れなども防止することが可能となるのです。WBSを学んだ時は感動しました。なんだ簡単じゃないか!できるではないか!と。

ガンタトーン:
WBSは混沌とした現場のタスクを整理するのに非常に有効な手段だと僕も思いました。プロジェクトマネジメントを進める上で、5つのプロセスの中で最も難しいのはどこですか?

パイブーン氏:
リスク管理の部分です。ここは経験がないと想像するのが難しい。それに、起きないかもしないリスクを考えるなんてモチベーション上がらないでしょう(笑)。「起きてから対処すればいい」と考えるタイ人も多いですしね。リスクを洗い出すのにも工夫が必要です。ベテランの人ほど自分の経験で物を語るので、一方的に「それはやってはダメだ」と言ってしまう。リスクをリアルに想像するには、失敗の経験がない人にも自分で考えて気が付いてもらうことが重要なのです。例えば、部下が不安定な場所に水の入ったコップを置いたとします。ガンタトーンさんは何と言いますか?

ガンタトーン:
「こぼれて危ないから別の場所において」ですかね?

パイブーン氏:
僕はこう言います。「昔僕もこういう場所にコーヒーを置いてこぼしてしまったことがあるんだ。お客様の大事な資料はひどいことになったし、僕のPCもショート。商談は台無しだよ」と。様々なところに潜むリスクを洗い出すには、経験者と未経験者の連携が重要なのです。

WBSの構築に重要なのは、関係者全員を巻き込む力

パイブーン氏:
WBSを学んだ当時、「非常に画期的な手法だ!」と思いすぐ現場に取り入れましが、最初のうちは全く上手くいきませんでした。なぜなら、関係者にはその必要性が伝わっておらず、「面倒だ」「細かい」と思われてしまったからです。

そこで僕は、PMPの授業中にはあまりピンと来なかった「コミュニケーション」の重要性に気付きました。今までエンジニアとして一人で黙々と働いていて、他の人とコミュニケーションをとったり、チームでの協業という場面に苦手意識があったのです。しかし、今思うとこの時が僕のターニングポイントだったと思っています。


WBSを定着させるには、関係者全員を巻き込み、一緒にWBSを作り上げる必要があります。私はチームのコミュニケーション改善に向けて、基本的なことから取り組み始めました。それは、難しい話(経験者にしかピンとこない話)を全員がわかるように簡単に話すこと、相手の価値観に合わせて伝えること、Active Listning を心がけること、感情的にならずに冷静にその人の意図を読み取ることです。

ガンタトーン:
忙しすぎて終わった業務の振り返りも社員とできていない僕には痛い言葉ですが、ゴールを見据えてプロセスを一緒に作る作業はとても重要ですね。

なぜ、プロジェクトマネジメントが必要だったのか?

ガンタトーン:
そもそもなぜ、パイブーンさんはプロジェクトマネジメントを学ぶようになったのですか?

パイブーン氏:
大学卒業後、在タイ日系企業のエンジニアとして6年間勤めたのですが、その時の経験がプロジェクトマネジメントとの出会いに繋がっています。

当時僕は、日本人上司の下で基幹システムの販売やネットワーク環境の構築を担当していました。与えられた仕事は進めているものの、日本人上司から進捗確認をされると「あー、そうですね、あとちょっとで終わります」などと曖昧な返事をしていました。正直、自分の仕事以外のことはよくわからなかったし、プロジェクトの全体像も全く見えていなかったのです。

報連相の徹底を促す上司にも次第にうんざりし、ある時「マイクロマネジメントをやめてほしい」と上司にお願いしたくらいです。上司の理解もあり、その後のコミュニケーションは少し穏やかになりましたが、「プロジェクトの全体像が見えない」という事実は変わらず、あの手この手で工夫をしてみるも、結局お客様への納品が期日に間に合わないという結果になってしまいました。

上司も今までの経験と慣れで仕事をしてきたため「プロジェクトの管理」という点ではノウハウをきちんと教えてもらえていませんでした。その頃僕はプロジェクトマネージャーを任せられていましたが、「これではまずい。何か勉強しなければ」と焦っていた時に出会ったのがトンブリー工科大学の大学院(Graduate school of Management and Innovation(GMI))での「プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル」という資格だったのです。

ガンタトーン:
そうだったんですね。日本でも今はMBAよりも人気のある資格と言われていますしね。現場をうまく回したいと悩む人は多いでしょうし、僕も自分の会社でスタッフにPMを勉強させたのもそうした現場の危機感からでした。

パイブーン氏:
プロジェクトマネジメントのスキルを用いることで、ぼやけていたアイディアをより明確にし、実現に向けてグッと加速させることができる一方、そのアイディアの実現性の低さに納得してもらい、無駄な議論や予算をかけずに済む場合もあります。優秀なプロジェクトマネージャーがいる組織では、アイディアが次々と形になり、イノベーションも生まれやすくなるでしょう。

プロジェクトマネジメントを有効に使うことで、「日本人とタイ人」といったバイアスを取り払って、結束力を高めてプロジェクトを進めて行けると良いですね。

※上記の記事に関連して、2019年10月08日(火)18:30-20:00、「無料セミナー:mirai talk|プロジェクトマネジメントの全体像と活用方法、タイ人に学んでもらうメリット」を開催予定です。ぜひ、お越しください!

mirai campusの画像
執筆 mirai campus

mirai campus の運営事務局。

Related Blog 関連ブログ|Related Blog

mirai campus newsletter

『mirai campus newsletter』は毎月1回、mirai campusの最新情報をお届けするメールマガジンです。 タイでのビジネスに役立つ様々なテーマで開催される講座や取材記事コンテンツをお送りします。 購読をご希望の方は、右記よりご登録ください。