Blog 第2回 質問がその人を作る|COACH A (Thailand) Co., Ltd. 特別取材

2020年04月22日 (水)

企業取材記
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COACH A (Thailand) Co., Ltd. のマネージングディレクター、青木美知子氏とガンタトーンとがガチンコで臨んだ対談。今回はその第2回をお届けましす。今回のテーマは「コーチングのスキル」。コーチングに必要なスキルとはいったいどのようなものなのでしょう。私たちにも取り入れられる要素はあるのでしょうか。ガンタトーンが青木氏に問いかけます。

思いの確からしさを確認する

ガンタトーン:第1回でコーチの役割についてお聞きしましたが、今日、青木さんにぜひお尋ねしたいのが、「もうこれ以上成長しなくてもいい」という人への対応です。そういう人っていますよね。その場合、コーチはどうするんですか。


青木氏:変わることが必ずしもいいというわけではありません。いま自分がここにいて、この先にもっと進みたいと思えば人は変わっていくし、苦労をしてまで行く必要がないと思えば行かなくてもいい。コーチにできるのは、その思いの確からしさを確認することです。

ガンタトーン:「俺はもうここでいいよ」という思いが確かであれば、コーチの仕事は終わり?

青木氏:終わりです。自分自身がそれを選択したという感覚を持てたのであれば、それはそれでいいんですよ。

ガンタトーン:なるほど。では、コーチはどういったことを意識してフィードバックをし、質問をしていくんでしょう。前回のお話では、アドバイスをしない、相手に対して興味関心を持ち続けること、クライアントを信じ続けることが大事だとお聞きしましたが、具体的な技術について教えてください。何かマニュアルがあるんでしょうか。

青木氏:こちらのこだわりや思いはいったん横において相手の物語を聞き、その上でその人が実現したいものについて紐解いていくことは、コーチの心構えのようなもの。その心構えを持った上で、何百ものコーチングスキルを使っていきます。コーチングのスキル自体は300とも600存在するとも言われていますから、英会話や筋トレと同じで、一朝一夕で身につくものではありません。中でも圧倒的に大事なのは聞くスキルですね。質問の技術です。それからアクノレッジメント(Acknowledgement)の技術。

ガンタトーン:相手を認めることですか。

青木氏:そう。認めてわかっているよと相手に伝えていく承認の技術。これも重要なコアのスキルです。

ペーシングからリーディングにつなげていく

青木氏:ペーシングというスキルもあります。要は相手にペースを合わせる。人は相手が自分と同じだと安心するものなので、私とあなたは違うというところからスタートしつつも、相手が安心してしゃべってくれるように相手に合わせていきます。具体的には、相手の話のスピードやトーン、目線の高さに合わせていく。使う用語の難易度も合わせます。

ガンタトーン:相手が人の目を見て話さない場合は?

青木氏:相手の目を見てしゃべるのが苦手という方をガン見すると、向こうが緊張するので、こちらも少し伏し目がちにします。そして、少しずつこちらのペースに持っていく。ペーシングはリーディングにつながります。

ガンタトーン:あえて難しい用語を使いたがる人の場合も、それを否定せずに受け入れて、自分の辞書でもっとも難しい用語を使うわけですね。

青木氏:そうそう。合わせておいて信頼関係ができたところで「もう少し私にもわかる言葉でお話してください。」と提案してみる(笑)。

ガンタトーン:ペーシングがリーディングにつながっていくというお話はとても興味深いですね。会話をするとき、相手にペースに合わせると時間のムダだと考えたり、簡単な言葉を使って説明すると自分が損をするような感覚に陥りがちですが、コーチングにおいてはそこはよこにおいて、まずは相手に合わせていくんですね。

相手のパフォーマンスを高める古田の技術に学べ

青木氏:会話のスタート時点や出会いの瞬間にはペーシングは特に重要です。ペーシングについては非常に面白い例があります。もう引退されましたが、ガンタトーンさんは古田敦也さんというプロ野球選手を知っています?

ガンタトーン:確か名キャッチャーですよね。

青木氏:よくご存知ですね(笑)。彼は試合の組み立て方だけではなくて、ピッチャーを盛り上げる技術にも長けてた、という話があります。ブルペンで古田さんがピッチャーのボールを受けるとき、ボールをキャッチする音が段々大きくなっていったそうです。最初はバシッと受け取り、やがてバーンと良い音が響くようにする。するとピッチャーは「あれ、俺、今日は調子がいいかもしれない」とマウンドに立てるんですね。ピッチャーが気持ちよく、自信を持って投げられるように、ある意味、古田さんが仕組んでペースを合わせ、徐々に引き上げていった。まさに素晴らしいペーシングの技術です。

ガンタトーン:すごいですね。僕も社長として部下からボールを受けとめる立場ですが、いつもボコボコにされているから、キャッチャーというよりもサンドバックですが(笑)。


青木氏:ピュアなコーチングにおいては、どこかに持っていこうとするわけではなく、そのクライアントがいかに必要なことを本音で話してくれるかというところを重視します。一方、部下に、選手にパフォーマンスを発揮してもらう際にはリーディングが必要になります。

ガンタトーン:古田さんの「ボールを受ける音を上げていく技術」ですね。

青木氏:ええ。自分が投げかけているものに対して、良い反応が得られると人は盛り上がっていきますから、部下のパフォーマンスを上げようとするなら、部下が発信したことに対して上司が盛り上げるようなリアクションをするということですね。とはいっても、普段とのギャップがありすぎると効果が薄いので、少しずつ上げていく。それが大事です。

ガンタトーン:非常に参考になります。

ありたい姿を可視化せよ

青木氏:コーチの技術でいえば、質問力は本当に大事です。前回もお話しましたが、自分へする質問がその人の人生を形作るとも言えます。コーチは、その方がまだしていない重要な問いをさがします。ですから質問の技術は、私たちコーチのテーマ。永遠のスキルアップテーマです。

ガンタトーン:質問力を上げるためのトレーニングは続けているんですか。

青木氏:はい。社内には常にいろいろなプロジェクトが動いていますが、例えばある企業のリーダーたちの部下への関わり合いを通して、そのクライアント企業が目指している組織変革を成し遂げようとするなら、部下にどういった問いを投げかけていくといいのか、社内で毎日のように議論しています。

ガンタトーン:言い方も質問の技術に含まれる?

青木氏:含まれます。この人には抽象的な問いの方がいいという場合もあれば、具体的に質問をしないとダメな場合もある。相手によってどのような言葉を届けるのが最適なのか、事前準備をしっかりと行います。

ガンタトーン:質問もあらかじめ考えておくんですか。

青木氏:準備します。ただ、事前に準備したままになることは100%ないですね。でも、準備は大切です。それは相手のことを深く考えることを手助けしてくれます。

ガンタトーン:コーチングの成果を、エンゲージメントやアセスメントといった可視化できる数字には置き換えているんでしょうか。

青木氏:置き換えます。私たちは業績向上はお約束できませんが、リーダーが自分が伝えているつもりのメッセージやありたい姿が社員にどれぐらい伝わっているか、どれぐらい行動として結実しているかは数値化できます。組織が変わっているかどうかを測定できるのです。といってもコーチングはテーラーメイドの設計です。つむぐ言葉はリーダーによってそれぞれ異なるので、その人の言葉でアセスメントをつくっていく。世界でもっともありたい姿をその人の言葉でアセスメントして、社員に広く投げかけていくんです。

ガンタトーン:ありたい姿を可視化することは経営者にとって重要ですが、非常に難しいことでもありますよね。未来が見えている経営者ばかりではないですし。僕も部下からよくそう言われていますが(笑)。


青木氏:未来にこうなりたいという姿がはっきりとしていればいるほど手に入りやすいですよ。逆に曖昧なものは手に入りません。未来像がクリアになれば実現する可能性が一気に上がります。大事なプロセスです。

ガンタトーン:前回お聞きしたように、未来像の画素数を上げていくことが重要なんですね。

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執筆 三田村 蕗子

日本のビジネス誌、流通専門誌、ビジネス書を中心に活動するフリーライター。2014年11月、拠点をバンコクに移し日本とタイを行き来する。鋭い視点で、活気づくタイとASEANのビジネス事情を取材している。

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