Blog 第1回 手にしたい未来像の画素数を上げていく|COACH A (Thailand) Co., Ltd. 特別取材

2020年04月15日 (水)

企業取材記
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組織のリーダーを開発し、業績向上に向けた組織成長のドライブを支援するエグゼクティブ・コーチング・ファーム、コーチ・エィ(COACH A)。タイには2013年に進出し、COACH A (Thailand) Co., Ltd. を設立しました。現在はタイに進出する日系企業を対象としたコーチング事業を展開しています。

COACH A (Thailand) Co., Ltd. のマネージングディレクターとして2017年に着任したのが青木美知子氏。今回、全3回に分けて、ガンタトーンと対談しました。第1回のテーマは「コーチングとは何か」。コーチングの本質についてガンタトーンが青木氏に迫ります。青木氏の示唆に富んだ言葉をお聞きください。

「have to」から「want to」へ

ガンタトーン:まず、COACH Aさんがどのような会社なのかを教えていただけますか。

青木氏:私たちは業績向上を実現し続けることができる組織づくりをお手伝いしています。どのような組織を目指しているのか。それに向けてあなた(経営者)自身は、どのようなリーダーシップを発揮していくのか。未来と現実とのギャップが何かを経営者とともに探して、実現したい状態に近づけていくリーダーをコーチとして支援します。

ガンタトーン:お客様の課題としてはどのようなものが多いんでしょう?

青木氏:「社員の主体性を高めたい」とか「もっとイノベーティブな風土にしたい」など、タイでは「現地化」でしょうか。

ガンタトーン:突き詰めていえば、人と人との関係性にかかわる課題ですね。

青木氏:そうです。エグゼクティブコーチをしていて思うのは、優秀なクライアントに「最後の課題」として立ちはだかるのは、やはり対人関係、人と人との関係性である、ということですね。クライアントの皆さんは、既存の知識や方法で対処できる問題は、十分に解決できる人たち。最後に残されるのは人との「やっかいな問題」なんです。

ガンタトーン:なるほど。そうした問題を解決する具体的なソリューションについてはこの後、詳しくお聞きしますが、その前に青木さんについて教えてください。COACH Aには14年前に入社されたそうですが、コーチングの世界に入ったきっかけは何だったんですか。

青木氏:私の前職は金融機関でした。友人がCOACH Aの創業メンバーで、彼から「おまえがその会社を、中から良くするのは難しいから、外から変えてみないか」と誘われたんです。コーチングは一生の仕事だという彼の言葉にも惹かれました。それまでずっと会社員でしたが、一生働き続けるというイメージはどうしても持てなかった。一生続けられるのならそれは素晴らしいなと(笑)。

ガンタトーン:実際、コーチをされてみてどうでした?どんなところにやりがいを感じているんでしょう。

青木氏:コーチとしてクライアントと向き合っていく中で、クライアント自ら今までとちがうやり方を見出し、周囲とも協力して、前に軽やかに進んでいく場面に出会うことでしょうか。人って一人で生きているのではなく、人との関係性の中で生きていることを強く感じます。得難い感動があります。

ガンタトーン:青木さんがもともと持っている資質や能力とコーチングが合致していたんでしょうか。

青木氏:私はもともと「〜しなければならない」と考える体育会系気質なんですよ(笑)。でも、コーチングを通してクライアントがやれることがどんどん増えていく。それを見ていると、自分のこだわりとか勝手に設定していたしがらみみたいなものから少しずつ開放されていきました。「have to」から「want to」に変わって、やりたいことを自由に考えていいんだと思うようになったんです。

ガンタトーン:金融業界のがちがちの「have to」から開放されて、「want to」に変化したんですね。青木さんを見ていると、「want to」に変わっていくパワーを人に届けているという印象が強くあります(笑)。

コーチング人生を変えた!? 船橋駅での思い出

ガンタトーン:14年間のコーチ人生の中で、人生を変えるほどの印象深い仕事はありました?

青木氏:たくさん印象深い仕事を体験し続けていますが、特に苦労したコーチングは私を成長させてくれたという意味で忘れられないですね。7年前になりますが、セッションのたびにやれない理由を私にアグレッシブにぶつけてくるクライアントがいました。その方は部下の動きにフラストレーションを抱えていました。その後、私は部下の方にインタビューする機会を得たのですが、信頼関係がかなりくずれていることがわかりました。心配になってコーチとしては踏み込み過ぎだったかもしれませんが、私は上司であるクライアントに電話をかけたんです。そうしたら「あいつ(部下)はダメだから。どうにもならないからいいんです。」と言うばかり。私も頭にきて(笑)次第に激しいやりとりになって、ついに電話を切られてしまいました。

ガンタトーン:それはずいぶん手強い相手ですね。

青木氏:でも、ここで諦めてはだめだと思って、すぐに電話をかけ直しました。携帯にかけても出てくれないから秘書の方にかけて、必死の思いでつなげてもらったら、やはり言い合いになったんです。「私は関わりは諦めませんから」といって今度は私がなんとか伝えたいことを伝え、電話を切った(笑)。そうしたら、今度は向こうから電話がかかってきたんです。「こんなことをされたのは初めてだ」「この際、言いたいことを全部言ってくれ」と。船橋の駅での大声でのやりとりだったんですが、雨降って地固まるというか、少しずつ話し合いになりました。どうやったら部下がうまくいくのか、と。実はその方とのコーチングはいまも続いています。あのとき恐れに負けて諦めていたらいまの私はない。恐れずに向き合うこと、諦めないことの大切さを教えてもらいました。

ガンタトーン:船橋駅の伝説だ(笑)。

コーチはアドバイスをしない

ガンタトーン:コーチングとは何をするのか、よくわからないという方も多いと思うので、ここでコーチングのポイントというか重要な点を教えてもらえますか。ただ、しゃべっているだけじゃないのかと考えている人も多いので(笑)。

青木氏:理解されづらいことではあるんですが、私たちがコーチングの中でもっとも大事にしているのはアドバイスをしないことです。

ガンタトーン:普通、コンサルタントはクライアントにアドバイスをして、その対価としてお金をもらっていますよね。コーチはアドバイスはしないんですか?

青木氏:私たちが基本的にすることは、フィードバックといっていま起きていることを鏡のようにクライアントに伝えることです。そして、質問をする。といっても、こちらが聞きたいことを聞くのではなく、目の前のクライアントが手にしたい未来に近づくための質問です。人って、毎日自分に質問を投げかけているんですよ。明日は何時に起きようかとか今日はミーティングがあるからどんな服を着ようかとか。成功している方は常に自分自身に向けて有効な問いかけをしています。質問がその人の人生を作っているともいえますね。だから、クライアントが難しいアサインメントに直面していたり、挑戦したり、難局に立ち向かうときに、その人がまだ自分にはしていない、かつその方にとって有効な質問を外から問いかけていく。それがコーチの最初の役割です。ただ、フィードバックも質問も、されてうれしい人はあまりいません。

ガンタトーン:自分では避けてきた、見たくないことや考えたくないことだからですね。


青木氏:ええ。でもコーチはこれからに向けては見て考えなければならないことを問いかけ、フィードバックを伝えていきます。この2つによってより深く考え、周囲を俯瞰し、その中で選択肢を広げていくことができる。それがコーチの役割であり、コーチングで起きることです。

ガンタトーン:成功している人は自分に対して有効な質問を投げかけている。印象深い言葉ですね。

クライアントを信じることを諦めない

ガンタトーン:そうした問いかけをするコーチに必要な能力や姿勢とはどのようなものでしょう。コーチとして青木さんがもっとも大切にしていることは何ですか?

青木氏:相手に対して興味関心を持ち続けることがまず大事。それからクライアントを信じ続けること。

ガンタトーン:でも、人を信じる力を持ち続けるのは、言葉でいうほど簡単ではないですよね。

青木氏:こうあるべきだとつい言いたくなるときもありますよ。でも、それはそれでいいんです。こうした方がいいと思ったとしても、それを疑ってみて、いったん脇に置く。お客さまの物語はお客様自身で選んでもらうことが大切です。


ガンタトーン:好奇心、信じる力、俯瞰する力、冷静になる力が必要なんですね。

青木氏:そうはいっても、船橋事件のように感情的になることもありますが(笑)。重要なのは素でいられるかどうかです。そうでなければクライアントも素になれません。クライアントは会社ではリーダーとしてのたくさんの鎧を着ています。その鎧が機能するかどうかを検討し合うパートナーがコーチ。どちらが上でどちらが下ということではなく、お互いが一人の人間として対等に向き合える場所を作っていくんです。

ガンタトーン:お互いが素になって、一緒にクライアントが手にしたい未来について考えていくわけですね。

青木氏:はい。クライアントが求めているものとは何なのかをはっきりさせ、未来像の画素数を上げていく。その対話のプロセスに私たちはコーチとしてやりとりをしていく。それがコーチングの役割であり、醍醐味です。

ガンタトーン:未来像の画素数を上げていくーー。心に刺さるフレーズです。

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執筆 三田村 蕗子

日本のビジネス誌、流通専門誌、ビジネス書を中心に活動するフリーライター。2014年11月、拠点をバンコクに移し日本とタイを行き来する。鋭い視点で、活気づくタイとASEANのビジネス事情を取材している。

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